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古くさい慣習に縛られた町

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当時、私たち家族が住んでいた町は、古い城下町だった。

高台には、でーんと お城が構えてる。
その周辺が、古くからの商店街。

そしてさらに その周辺部は職人町。
陶器や、漆器や、張り子の人形……いろんな工芸品を作る工房があった。

昔は、たいそう栄えた町だったそうよ。

だけど そんなの、昔のはなし。
私が生まれて間もないころに、デパートやらスーパーマーケットやらが、都心から進出してきたの。
そんなわけで、安く買える大量生産品が どんどん入ってきていたのよ。

きっと、そのせいね。
商店街は すっかり活気が なくなっていた。
閉店しちゃう お店も出てきていた。
かろうじて営業してはいたけど、ほんの数件の宿屋も、なんだか開店休業っぽかった。

職人さんも、苦しかったんじゃないかな。
なぜって、同じ性能の お道具なら、人は 値段が高い物より 安い物を選ぶよね。

そんな時代を迎えていたのに。
町の人たちは、考え方が古くさいまま。
がんこな石頭ぞろいだったの!

職業に就いて社会を動かすのは、男の役目。
家事と育児は、女の役目。
そんな考え方が定着しきっていた。
世界は、どんどん進歩しているのに。

世の中には、男と女が半分ずついる。
なのに、「女は家に引っ込んでいろ。町のこと、社会のことは、男に任せとけ」ってさ。
それって つまり、町の総人口の半分しか機能させない ってことでしょ。

学校に通っていれば わかるよ。
あのさ、男子よりアタマのいい女子が大勢いるんだよ?
男子だけでは、学校の いろんな活動、まともにできないんだよ。
大人の世界だって、同じことでしょうに。

15歳の女の子だってわかることを、なんで大人たちが わからないかな?

でも現実は……こんな ありさま。
この町で女が就ける職業って、ほんとに限られていた。
結婚後も、社会の仕事に生きる 母のような女性は、ほんとに珍しかったのよ。

私は、母のような大人に なりたかった。

母は、病院で薬剤師をしていたの。
男たちの中で、ただ ひとりの女性薬剤師だったの。
私はそんな母を、とても尊敬していた。

ただし、こんな町だから、
男と同じ仕事をしてるのに、なぜか母の お給料は安い。
母より後輩だった男たちが、母を追い越し、どんどん出世していく。

私、知ってたよ。

「私、あきらめないわよ。この町を変えたいの。
女性も働きやすい社会にしたいの!」
って、母が父に話していたこと。

・・・

私が将来やりたい仕事は、もの作り。
技術者になりたいの。

陶器でもいい。漆器でもいい。
昔ながらの かたちに こだわらず、使う人が使いやすい設計をしたり、デザインをしたりするの。

建築にも興味があったわ。
たとえば、多くの女性が 毎日 休みなしに働く お台所。
なぜか家の はしっこの、一番不便な場所に あるでしょう?
これをね、家族みんなが団らんする、お茶の間に備え付けるの。

あり得ない設計かもしれない。
でもね、うちみたいな家族には、とても機能的なんだ。
父と母が、どちらも家事をする夫婦だったからね。
日本の未来は、うちみたいな家族が増えると いいなあ。

父は よく言ってたわ。
「仕事も家庭も、男女が協力しあわなきゃ、日本は良くなっていかない」

私もね、父の意見は正しいと思うんだ。
あああ。
この町で技術者になれるなら、私だって この町で 頑張れるんだけどなあ。
この町にいる限り、絶対に不可能な夢だ。

町の人たちは、最悪に古くさいがんこ者。
職人町の親方たちは、男のお弟子さんしかとらない。
大工さんも、男しかいない。
さらに言うなら、お医者様も男しかいない。ハイヤーの運転手さんも、男しかいない。
聞いたところによると、そういう職業は、はじめっから 男しか採用しないんだって。

だから私は、進学高校へ行きたいの。
そして大学に進んで、卒業したら 大都会で働くの!
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