トマレとミコの ひなまつり

女たちの ないしょ話

１７

「会社を立ち上げたのは、大人になったトマレと再会したのがきっかけさ。

実家から連絡があったんだ。
『先生に会いたい』と、一行だけ書かれたハガキが届いたと。
１０年以上ぶりだ。

トマレは、とても綺麗な娘に成長していた。
だけど、こんなに綺麗な娘が、 ちっとも幸せでなかった。
会うなり、泣きながら言うんだよ。
『死ぬ前に どうしても先生に会いたかった』と。

その時トマレは、妊娠４ヶ月の身重だった。
それ以前にも、何人もの男と付き合って、妊娠するたび捨てられて、中絶してきたそうだよ……。
それで今回は赤ん坊といっしょに、自分の命を絶つことで、何もかも終わりにしようと 決めたんだと。

……。
思えばトマレは、家庭を知らずに生きてきたんだ。
そりゃ、親も人間だ。事情はあったんだろうさ。
だけど、生まれた時から父親は いなかった。
母親だけが唯一の肉親だった。
なのに、トマレが中学を卒業した日に、その母親も失踪しっそうしていたんだ。

トマレは たった１５歳の身で、突然ひとりぼっちさ。
学校が嫌いで、先生方を信頼していなかったトマレには、相談できる大人が誰もいない。
身元保証人のない未成年では、まともに働けるところもない。
そんなトマレが、ただ生きるために どうしていたのか……」

「……だから司つかささんは、この会社を立ち上げた。
トマレさんのためだったんですね……」
司の打ち明け話に、つぐみは やるせない思いで いっぱいだ。
何しろトマレと ほぼ同い年の つぐみだけれど、話を聞いて想像するだけでも、トマレの人生は、耐えがたい。

でも今は、トマレには司が いてくれる。
かわいい子どものミコもいる。

「そうだね。そうだよ。トマレに言ったんだ。
死ぬ前に、子どもを産んで、家族になってみないか。
そして わたしに、家庭をつくる手伝いを させてくれないか。って」

「あたしも 手伝えたら うれしいですけど。
今日を その 始まりにして、トマレさんとミコちゃんの 家庭を」

「おう。ありがたいね。
ていうかさ、つぐみの力を ぜひ貸してほしい。
トマレとミコの 友人になって ほしいんだ」

「友だちですって！？
わあ。うわあ。はいっ。ぜひ。よろこんで！   
あたし、ほんと うれしいっす」

 両手を上げ、万歳のポーズをする つぐみを見て、
さっきまでは 怒っているような顔をしていた司に、いつも通りの さわやかな笑顔が 戻った。

明日も よい天気になりそうだ。

━━  おしまい ━━