トマレとミコの ひなまつり

女たちの ないしょ話

１６

「そうだねえ……。この際だから聞いてもらうとするかな。
わたしはね、男女の どちらにも、家庭の大切さを学んでほしくて教師になった。
ところが当時の学校は、いろんな機会に、男女を分け隔てる教育を していたんだ。
何ごとも男子優先だった。男子も女子も、権利は平等なのにな。
で、家庭科は、女子だけの必修教科だ。つぐみの中学時代も そうだったろう」

話し始めた司つかさは、怒ったようにグシャグシャと タバコの火を もみ消すと、備え付けの灰皿に放り込んだ。
そして一呼吸おくと

「日本国憲法が公布されたのは、昭和２１年だ。
男女同権が謳うたわれ、同権の夫婦が協力して家庭を築くのだと、しっかり謳われている。
昭和２１年って、いつだ？ つぐみは もちろん、わたしも生まれていない時代だ。
なのに学校教育は、わたしたちが生まれる前の時代と、変わっていなかったんだ。

教師になった わたしは、女子だけを相手に 家事と育児を教えなきゃならなかった。
わたしも若かったからな。発言する機会があるたびに言い続けた。
男女共修にすべきだと。
けど、なんにも変わらなかった。

学校は、国が決めた通りに 子どもたちを教育する組織だ。わたしは それに従うべき一員に すぎなかったんだ。

そのころに、当時 中学生だったトマレと出会った。
母子家庭でね。母親は家に帰らない日が多く、満足に食べることもできなくて、やせっぽちな子だった。
少しでも力になりたくて、放課後に、料理の作り方を教えたんだ。
けど、それも一年ほどしか続けられなかった。
わたしは異動を命じられ、遠くの学校へ移ったからな。

教師を辞めたのは、それからまもなくのことだ。
やり方を変えたんだ。
民間会社に勤める人と、縁あって結婚した。ラッキーなことに、男の子が生まれた。
それからの わたしは、ＰＴＡの役員さ。
学校側には はた迷惑だったろうが、モンスター保護者の代表だ。

運動したんだ。
『男女を分け隔てしない教育を してくれ！
わたしたちの子どもには、男女が尊重し合い 協力し合う家庭を築いてほしいんだ。
だから、男女共に家事も育児も教えてくれ！』
ってな。
多くの母親たちが、共に立ち上がってくれたよ」

「ははあ なるほど。司さん、学校内部ではなく、外側から働きかけたんですね。
効果的だったと思いますよ！
思えば この会社の お客さん、奥さんに離婚されたオジサンが多いですもんね。
『妻の ありがたみが ようやく わかった』って、泣き言をいうオジサンばっかり。
後悔する前に気がつけよ、っつーの！」

「だよねー。お客さんに 年配の男性が多いことには、わたしも驚いてるよ。
儲からない会社だし、わが社を求めてくださる お客さんのことしか 手伝えないけどね。
それにね、後悔することだって、その人にとっては 進歩だよ」

「あ、なるほど！
気づいて後悔するんだから、進歩。なるほどねー。
それが会社を立ち上げた理由ですか？」