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私の父が勧めた離婚話と、ジェンダーギャップ

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結婚して半年くらい過ぎた時だったかな。
なので、今となっては昔ばなしになるんだけど
父から電話がありました。

「さっさと離婚しなさい。帰っておいで」

昼ごろで、私は洗濯機を回しながら、お風呂掃除をしていました。
いつも日中は、義父も義母もダンナも仕事(義父が社長です)で、私はひとり。
ひと通りの家事を終えると、テレビを観るか読書をするだけの毎日でした。

結婚すると決まって以後、ダンナと約束したはずのことが、ことごとく破られた結果です。
私はダンナと結婚したのではなく、昔の時代にタイムスリップしたみたいでした。
家庭内において、義父は絶対専制君主。
誰も逆らってはいけないのです。

そんな義父の方針は、
跡継ぎの長男は生涯、親と同居することが大前提。
そして就活する気満々だった私に、義父いわく。
「会社経営者の家のヨメが、他の会社に就職するなどありえない」

おまけに、時代錯誤な義父の信条というのが
私には、びっくり仰天することばかり。
その最たるものが、

『世の中で最も馬鹿な男の次に並ぶのが、世の中で最も優れた女である。
つまり、女がどれほど努力したところで、男には絶対にかなわない。
女はしょせん馬鹿なのだ』

こんなこと、いま人に言ったら犯罪者として捕まります!

なんだけど、私はたまたま国立大学を卒業していたことと、わりと知名度の高い企業に就職していたおかげで
こんな酷いことだけは、言われずにいたのです。
義父は、世の中の人の価値を、
最終学歴やその学校名、勤めている(いた)企業の知名度で
選別していましたから。

しかし義母は、家の事情で高校進学を諦め、すぐ働き出しました。
そして義父に出会い、見初められ、望まれてお嫁入りした人です。
なのに、義父の妻となって以後、ずっと言われ続けてきたのです。
「~~女はしょせん馬鹿なのだ」

義父が死んで何年も経つのに、義母はいまだに話します。
悔しくて悲しくて、泣きながら話します。
そのたびに、私は義父を許せません。

こういう家の長男と結婚した当初の私は、
ゲージの中で飼われている小動物の気ぶん。
車もないし、自転車もないので、外出は徒歩圏内。
徒歩圏内はコンビニが一件あるきりで、あとは住宅地と、田畑や荒地があるばかり。
買い物は義母の役目、食事の献立を決めるのも義母。
なので私は義母の帰宅後から、指示通りに動くのみ。

要するに、日中はヒマでした。
閉塞感でいっぱいでした。
なので時々、ふるさとの両親に電話していました。
「なんか、この家、変だよ……」

で。
結婚してタイムスリップした半年後。

速達便で、分厚い封書が届きました。
開けてみると、なかみは
とある企業のパンフレットと、新聞記事の切り抜き。
切り抜き記事の内容は、その企業を起ち上げた女性を取材したものでした。
そしてまた、パンフレットも記事も読まないうちに、父から電話がありました。

「郵便は届いたかな?
新聞記事の女性は、お前と同郷の人で、昔はなんと、お前と同じ会社に勤めていたのだ。
結婚を機に、ご主人の強い意向で仕事を辞めて、専業主婦になったのさ。
しかしその女性は、1年で結婚生活に見切りをつけた。
そして帰郷して、5人の仲間と共に起業した。
仲間全員が女性だよ。
いまは、共に頑張ってくれる女性メンバーを募集している。
仕事はデザイン関係だ。お前の技術を生かせるはずだ。
会社も家から遠くない。
まずはさっさと帰っておいで。そして面接試験を受けなさい。
離婚はその後でいい。
父さんが、そちらへ出向いて話をつける」

あの時は、心に青空が広がりましたね。
その女性に会ってみたくなりました。

・・・

はい。昔ばなしです。

あれからほどなく、ダンナと義父は仕事の件で大喧嘩して、
ダンナは私を連れて家を出ました。会社も辞めました。
6帖ひとまのアパート暮らしから、もう一度、結婚生活スタートです。
その後いろんな経験をして、現在に至ります。

ところで。
私の両親も、ダンナの両親も、昭和生まれの同世代なんですけどね。
私の両親は普通の人です。
それぞれ仕事を持ち、家庭ではすべて協力、共同、助け合い。
こんなの当たり前でしょう。

なのにダンナの父親は……
なんであんなに男だ女だとこだわり、優劣を付け
女を見下し、圧力をかけたのでしょう?
世間体は、人望があり部下に尊敬される、立派な人でしたけどね。

同じ時代に、同じ日本に暮らしていても、
こんなに異なる価値観を持つ人がいるんです。

私が思うに、義父には何か、すごいコンプレックスがあったのかもしれません。
たとえば
自分がどんなに努力してもかなわない優れた女性がいて、
恋焦がれていたけど、見向きもされなかったとか。
あるいはその優れた女性に、バカにされて傷ついたとか。

ジェンダーギャップの根底にあるものが、コンプレックスなら、
無くする未来にしたいですね。
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