時の織り糸

コジマサトシ

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32(ユカ)

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 だいたいの事は解った気がする。やるべき事は解る。でもやり方が解らない。

 もどかしい。

 自分の経営層との距離は、今まで近いと思い込んでいた。ただそれはチヤホヤされていただけだったのだ。何にもあのジジイ達の事を解っていなかった。会長もニコニコしてる姿しか見た事が無いし、今思えば『いつも何考えているんだか、よく解らない存在』だ。社長相手だけかな、何となくでも『正しく解っていた』ような気がするのは。

 いったい、あたしなんかに、何が出来るっていうのか。部下の育成とお客様への対応はずっと磨き続けてきて、自分は日本中で見ても店長として3本の指には入っていると思っていたけど。もちろん自称。そして今回、それは何の役にも立たない。

 ただ、ハヤカワが話してくれた年表からすれば、何もしなければ、あたしは2006年に退職する。その後、おそらくずっと働く事なく時が過ぎていく。

「…ハヤカワさあ…あのさ…」
「ん?なんだ?」
「何をすれば良いのか解ったけど。何をすれば良いのか解らない」
「そりゃ、いきなりそんな良い方法が思いつく訳ない。俺もノープランだよ…」

 気がつけばテーブルが、何処から落ちるしずくで、黒くなっていた。頬がぬるい。私の瞳からだった事には、すぐには気づけなかった。

「その特殊な…涙の流し方を見るのは2回目?だな。声も出さない、表情も変えない。目から、ただこぼれ落ちる…そんな泣き方」
「言うな…ハヤカワ…自分が泣いている事を認めたくない…」
「1回目にその場面に遭遇した時も、そう言ってたよ。ユカは。確かあの時は」
「それもお願いだから言わないで、ハヤカワ」
「解った」

 ただ、黙ってこちらを見ているハヤカワが、困ったような、怒っているような、悲しいような、そんな顔をしている事だけが、頭にあった。
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