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29(ユカ)
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「それって」
「ああ、未来委員会やユカが悪い訳じゃない。むしろ正しい事をした。ただ結果は社長が退任し、俺たちの仲間はみんな居なくなった。ユカもそうだ」
「そんなの…」
「そう、そんなのおかしいんだよ。ただ『楽に甘い蜜を吸えなくなった』奴らには、面白くない事態だった訳だ」
ハヤカワが見た事のない表情をしている。長い付き合いだと思っていたけど。
「想像するに、まずは…『おじいさま達』は、楽しい楽しい謎の出張は出来なくなった。あとは癒着?…というか、俺からすれば何でこんな値段が高くて。縫製も汚い、ボタンもすぐ取れる、質の悪いメーカーに発注しないといけないんだと思っていた所…どうやら常務と繋がりがあったらしく…そのキックバックを受け取れなくなった。…他にも山のようにそんな話があるんだろうが、とにかくそんな良くないモノを、全部流しきった」
何だろう。怒り…じゃない。身体が冷たい。寒い。押しつぶされるよう。
「会社の利益の行き先が、従業員とお客様に還元されていくんだ…良い事だろう?普通。でも今まで、その利益を自分の手にしていた側からすれば…後はさっき書いた流れだよ」
「…て、ことは、私が毎月会社の事を想ってわざわざ来ているカイギで、いろいろ言って『おお、その意見は素晴らしい!すぐやろう』とか言ってた、あのジジイ達は、裏では私の事を笑っていたって事?…いっぱい俺らのために稼いでくれてありがとうって?!はああ?!ムカツク!」
「ユカ…落ち着け。全役員がそうではないと思う。思うけど、だから社長は退任に追い込まれたと考える方が自然で、そこに噛みつく煩い社員を排除するのも、理解はできないけど、理屈は解る」
「で、でも…そんな事してたら、数年で会社やブランドは一気に駄目になっちゃうでしょ?流石にベテラン社員まで居なくなったら…キツいよ」
そうだよ。そんなの、おかしい。
「五年…五年だけ、維持出来ればよかったんだよ、役員のジジイ達は、その時点でほとんどは六十歳を超えていた。元々の創業事業からのメンバーで、今の事業であるアパレル小売りなんて、まったく解っちゃいなかった。そもそも興味も無ければ未練もなし。いよいよ厳しくなったら、もらえるモノをもらって、はいサヨナラってね」
何だろう…ハヤカワは悪くないのに、淡々と話しているハヤカワに対しての嫌悪感が生まれる。いや、ハヤカワは冷静に事実とその推測を話してくれているだけだ。当たりやすいものに当たろうとしちゃダメだ。
「…だいたい解った。じゃあそれを、先回りして防げばいいんだよね?」
「そうしたい…と思ってる」
「じゃあ、方法を考えようよ!」
「って、言ってもなあ…難しいよなあ」
これだから…理屈が先行する男は嫌いだ。いや、違う。そもそもハヤカワは理屈っぽい所あるけど、それだけじゃない柔らかい頭を持っていたはず…そうか…ここにいるハヤカワは中身は、やっぱり五十歳のオジサンで、どうやら、あれから年月を重ねて理屈だけが先に行って頭がカチコチになっているように感じる。正直に、そのまま思った事をハヤカワにぶつけた。
「あたしの知っているハヤカワは、そこでこそアイデアを出せる男だったよ?」
「ああ…俺の頭は、いつの間にか凝り固まっているらしい。年のせいか」
「年は関係ないよ。多分、ここからの二十年がそうさせただけでしょ。違う二十年を過ごしていたら、それは違うはず」
「…ユカの言う通りだ」
ハヤカワは、すっと立ち上がった。
「ちょっと?何処行くの?」
「メロンソーダを注文してくる」
見た目は二十代後半、身にまとった空気感は中年男性。でも、さっきまでの『それ』に、何かが加わった気がした。
「ああ、未来委員会やユカが悪い訳じゃない。むしろ正しい事をした。ただ結果は社長が退任し、俺たちの仲間はみんな居なくなった。ユカもそうだ」
「そんなの…」
「そう、そんなのおかしいんだよ。ただ『楽に甘い蜜を吸えなくなった』奴らには、面白くない事態だった訳だ」
ハヤカワが見た事のない表情をしている。長い付き合いだと思っていたけど。
「想像するに、まずは…『おじいさま達』は、楽しい楽しい謎の出張は出来なくなった。あとは癒着?…というか、俺からすれば何でこんな値段が高くて。縫製も汚い、ボタンもすぐ取れる、質の悪いメーカーに発注しないといけないんだと思っていた所…どうやら常務と繋がりがあったらしく…そのキックバックを受け取れなくなった。…他にも山のようにそんな話があるんだろうが、とにかくそんな良くないモノを、全部流しきった」
何だろう。怒り…じゃない。身体が冷たい。寒い。押しつぶされるよう。
「会社の利益の行き先が、従業員とお客様に還元されていくんだ…良い事だろう?普通。でも今まで、その利益を自分の手にしていた側からすれば…後はさっき書いた流れだよ」
「…て、ことは、私が毎月会社の事を想ってわざわざ来ているカイギで、いろいろ言って『おお、その意見は素晴らしい!すぐやろう』とか言ってた、あのジジイ達は、裏では私の事を笑っていたって事?…いっぱい俺らのために稼いでくれてありがとうって?!はああ?!ムカツク!」
「ユカ…落ち着け。全役員がそうではないと思う。思うけど、だから社長は退任に追い込まれたと考える方が自然で、そこに噛みつく煩い社員を排除するのも、理解はできないけど、理屈は解る」
「で、でも…そんな事してたら、数年で会社やブランドは一気に駄目になっちゃうでしょ?流石にベテラン社員まで居なくなったら…キツいよ」
そうだよ。そんなの、おかしい。
「五年…五年だけ、維持出来ればよかったんだよ、役員のジジイ達は、その時点でほとんどは六十歳を超えていた。元々の創業事業からのメンバーで、今の事業であるアパレル小売りなんて、まったく解っちゃいなかった。そもそも興味も無ければ未練もなし。いよいよ厳しくなったら、もらえるモノをもらって、はいサヨナラってね」
何だろう…ハヤカワは悪くないのに、淡々と話しているハヤカワに対しての嫌悪感が生まれる。いや、ハヤカワは冷静に事実とその推測を話してくれているだけだ。当たりやすいものに当たろうとしちゃダメだ。
「…だいたい解った。じゃあそれを、先回りして防げばいいんだよね?」
「そうしたい…と思ってる」
「じゃあ、方法を考えようよ!」
「って、言ってもなあ…難しいよなあ」
これだから…理屈が先行する男は嫌いだ。いや、違う。そもそもハヤカワは理屈っぽい所あるけど、それだけじゃない柔らかい頭を持っていたはず…そうか…ここにいるハヤカワは中身は、やっぱり五十歳のオジサンで、どうやら、あれから年月を重ねて理屈だけが先に行って頭がカチコチになっているように感じる。正直に、そのまま思った事をハヤカワにぶつけた。
「あたしの知っているハヤカワは、そこでこそアイデアを出せる男だったよ?」
「ああ…俺の頭は、いつの間にか凝り固まっているらしい。年のせいか」
「年は関係ないよ。多分、ここからの二十年がそうさせただけでしょ。違う二十年を過ごしていたら、それは違うはず」
「…ユカの言う通りだ」
ハヤカワは、すっと立ち上がった。
「ちょっと?何処行くの?」
「メロンソーダを注文してくる」
見た目は二十代後半、身にまとった空気感は中年男性。でも、さっきまでの『それ』に、何かが加わった気がした。
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