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26(ハヤカワ)
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個室スペースのドアを開けて、一般の客席の方を覗く。
そこには、やたら美味しそうに、ただの冷たい水を飲み干すユカの姿があった。店内は少し騒がしいものの、もう他の客は少ない。
「お?ハヤカワ?もう出来たの?」
「ああ…ざっくりだけど、書いたよ。特盛カレーは…もう食べたのか?」
「あ、やっぱり大盛りにしといた。特盛カレーは、あたしには20年早い」
店が何十年も大切に使っているであろう縁が彩られた白い皿を、表彰状の様に持ち上げるユカ。少しカレーの色は残っているが、ご飯粒など、下に落ちるようなものは皿には付いていない。
「…いろいろ言いたい事はあるが、とりあえずこっちに来てくれ」
「いろいろ言いたいなら、それは、ぜひ聞きたいんだけどねー。全部」
「…ここのカレーは大盛りでも充分多い。俺はいつもご飯少なめだ。それに食べるのが速すぎるから、もっとよく噛め。20年早いを、巧いこと言ったみたいな顔するな。その皿、きっと大事なモノだから大切に扱え。ご飯をキレイに食べるのはユカの良い所だ。以上」
ユカは、ニコニコとニヤニヤを混ぜたような表情で、満足そうだ。
「ほー。流石の早口ですねえ。最後に褒めて中和するテクニックもあるしね。まあ、言い方がちょっと気持ち悪いけど」
「…もういいか?とにかく、こっちに戻ってきてくれよ」
「はいはい。…あっ、すみません、ご馳走さまです。あっちに戻ります」
カウンターにいるヒゲのマスターに一礼しながら、こちらの個室に向かってユカは歩き出す。
ユカが個室に入って、ほんの数秒、おかわりの水とBLTサンドイッチがテーブルに置かれる。
「ユカ…!…まだ食べるのか…?」
「違うよ!ハヤカワの分だよ!サンドイッチは何かしながらでも食べやすいよ!」
「ああ…頼んでおいてくれたのか。ありがとう」
「えっと…皇帝?男爵?えっと、伯爵?だっけ」
「伯爵だな。サンドイッチ伯爵…ただ、ここのBLTは瑞々しい野菜を使っているから、手で食べると色々ビショビショになるけど。…良い意味で」
「…あたしが食べましょうか?」
「いや…ゴメン。いただきます」
ハヤカワがサンドイッチを手に取りながら、ユカに、自分の隣に座るよう促す。
そこには、やたら美味しそうに、ただの冷たい水を飲み干すユカの姿があった。店内は少し騒がしいものの、もう他の客は少ない。
「お?ハヤカワ?もう出来たの?」
「ああ…ざっくりだけど、書いたよ。特盛カレーは…もう食べたのか?」
「あ、やっぱり大盛りにしといた。特盛カレーは、あたしには20年早い」
店が何十年も大切に使っているであろう縁が彩られた白い皿を、表彰状の様に持ち上げるユカ。少しカレーの色は残っているが、ご飯粒など、下に落ちるようなものは皿には付いていない。
「…いろいろ言いたい事はあるが、とりあえずこっちに来てくれ」
「いろいろ言いたいなら、それは、ぜひ聞きたいんだけどねー。全部」
「…ここのカレーは大盛りでも充分多い。俺はいつもご飯少なめだ。それに食べるのが速すぎるから、もっとよく噛め。20年早いを、巧いこと言ったみたいな顔するな。その皿、きっと大事なモノだから大切に扱え。ご飯をキレイに食べるのはユカの良い所だ。以上」
ユカは、ニコニコとニヤニヤを混ぜたような表情で、満足そうだ。
「ほー。流石の早口ですねえ。最後に褒めて中和するテクニックもあるしね。まあ、言い方がちょっと気持ち悪いけど」
「…もういいか?とにかく、こっちに戻ってきてくれよ」
「はいはい。…あっ、すみません、ご馳走さまです。あっちに戻ります」
カウンターにいるヒゲのマスターに一礼しながら、こちらの個室に向かってユカは歩き出す。
ユカが個室に入って、ほんの数秒、おかわりの水とBLTサンドイッチがテーブルに置かれる。
「ユカ…!…まだ食べるのか…?」
「違うよ!ハヤカワの分だよ!サンドイッチは何かしながらでも食べやすいよ!」
「ああ…頼んでおいてくれたのか。ありがとう」
「えっと…皇帝?男爵?えっと、伯爵?だっけ」
「伯爵だな。サンドイッチ伯爵…ただ、ここのBLTは瑞々しい野菜を使っているから、手で食べると色々ビショビショになるけど。…良い意味で」
「…あたしが食べましょうか?」
「いや…ゴメン。いただきます」
ハヤカワがサンドイッチを手に取りながら、ユカに、自分の隣に座るよう促す。
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