時の織り糸

コジマサトシ

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21(ハヤカワ)

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 ドアを隔てた店内が、バータイムの酒の力で活気付づいている事を感じながら、俺は続ける。

「つまりさ…この表示、現在の時刻じゃないんだよ…。実はさ、一番はじめにこの表示を見たときは、10時00分だった。それが、どうやら変な減り方をしている」
「…はい?時間が…減る?」
「さっき、ユカが会議だ、って、走って店を出たときに、何となく腕時計を見たらさ、09時50分だった。時間の表示が『確かに減っていた』。まあその時は…深く考えていなかった」
「うーん?話が難しすぎるよ?…ハヤカワせんせい?」

 まあ、訳が解らない話だからな…俺も話していて、混乱している。とにかく続ける。

「今って、どう考えても深夜だよな。で…今見たら08時50分。どう考えても変だ。時刻表示ではない事だけは確かで、そして数字が遡っている…減っているのも機械としておかしい」
「ふむふむ」
「これも完全に推測の域を出ないけど、未来の記憶や未来の情報を、私利私欲のために…とか、今を都合良く変化させるような『お望みでない発言や、思考をするだけ』でも、この時刻表示…いや猶予?が減っていくみたいなんだよ」
「あ、さっき社長室でハヤカワが、色々未来の話していたもんね」
「ああ、あの手の発言は、どうやら『ペナルティ』らしい」

 少し頷いた後「あれ?」とユカは、不思議そうに言う。

「ハヤカワ、この店で、私に色々未来の話をしてくれたじゃない。それ『ペナルティ』じゃない?」
「いや…実はさ。椅子に座る時は、何となく腕時計を見る習慣が俺にはあって、その時にはすでに08時50分だった。だから、この店で話した内容はノーカウントか、ペナルティ外みたいだ」
「うーん?ますます条件がわかんない…というかペナルティとか…何それ?っていうのが元々あるけど…」

 ユカが自分の腕時計に目をやる。白いベルトのデジタル表示の腕時計で、これも当時流行していたものだ。確か限定モデル。俺からすると20年も前の記憶なのに、すっと連想出来ているのは、少々不思議だが…記憶が2005年と2025年をミックス出来ているのかもしれない。

 何となく俺も、ユカの時計の時刻をなんとなく覗き込む。時刻は00時20分。もう完全なる深夜…夜中だ…そろそろ、ユカは家に帰らせないとな。

 ただ、もう少しだけ、あと少しだけ、はなしていたい。
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