時の織り糸

コジマサトシ

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12(ハヤカワ)

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 「親父…元々先代社長がやっていた事業は…アパレルとはまったく関係が無かったけれど、10年前にこのアパレル事業をやり始めて、トントン拍子に業界内で今のポジションだ。売上も社員数も、数十倍になった。業界内でも賞を貰ったりするようになった。それには、ユカさんにハヤカワさん、二人の力が非常に大きかったと思っているよ。改めてありがとう。」

 ユカが、社長に言葉に被せるように話始める。

「いやいや、社長!これは社員みんなで頑張った成果ですよ!…社長も、ちょっとは頑張ったかな?」
「おいおいおい…ユカ…その言い方はダメでしょ。社長は結構頑張りましたよ」

 普通なら、一般社員が社長に利くような言い方では無いが、実はこの3人の中では日常的なやりとりだった。世代の近さ以上に、社長の人柄に甘えている部分もある。そして、社長はいつものように大笑いしている。もちろん他の経営陣や社員がいる場では、こういう言い回しは、ユカは絶対にしない。そういう空気は正しく読めるのがユカだ。

「いやー、相変わらず二人とも手厳しいなあ。でも、それで自分自身にプレッシャーを掛けている事も理解しているよ。それも合わせて、二人をすごいと思っているよ」

 ユカは「ちぇっ…」と、マンガの様に言いながらも、ぼそっと「やっぱ社長すごいわ…」と呟き、俺も力強く頷く。そこに社長は続ける。

「二人は、この先…5年後、10年後、20年後…この会社、いやこの業界がどうなっていると思う?」
「え?」「……」

「正直な所、会長も他の経営陣も、この会社の将来には興味が無いんだ。いや…違うな…今のまま特別な問題も無く、この事業が続くと本気で思っている。本来、そういった未来の姿を描くのは得意な人達で、かつては熱量もスゴかった。…だけど、ここ数年で、その視点がすっかり抜け落ちてしまった。特に社長が僕になってからは、他の経営陣はみんなどうやってキレイに、金と一緒に身を引こうかを考えてばかりだ。有り難くもあるが、不安しかない。僕は未来に明るい色なんか、一つも見えていない」

 ユカは考え込むような表情をしているが、恐らく俺の表情は曇っているだろう。
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