時の織り糸

コジマサトシ

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03(ハヤカワ)

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 俺の人生は、ロクなモノじゃなかった。

 就職氷河期。職業選択は不可。

 人生のピークは二十五歳からの四年間だった。

 何度、その言葉を発してきただろうか。居酒屋もあれば、お店のバックヤード。電話やチャットでのやりとり。ランチ時間。退勤後。聞く方は鬱陶しいだろうが、そう発言している自分はまったく気には病んでいない。そう。ただ、ただ、言いたいだけなのだ。

 過去の経歴の財産を食い潰しながら、多くの転職を繰り返してきた。…もう今は無くなってしまった会社。合わない上司に追い出されてしまった会社。ケンカ別れした会社。履歴書の『左側』だけが妙に埋まっている男であり、今日、ついに五十歳という大台に乗った。

 やはり人生のピークは二十五歳、二十代後半まで、だったのだ。

 あの頃…俺が仕掛ける商品は、何でも売れた。若いし体力もあるから、少し無理をすればいくらでも企画が出せた。算数は得意な方で、それなりに絵も描ける。一晩徹夜でもすれば、売れるワンピースを十型起案し、自分で必要な発注数量を計算し、4色の色別の発注数量のバランスもすべて当てる事が出来た。

 たまに、店に販売員として立てば、自分の接客で嘘のように売れた。そもそもあの時代…2005年かその頃は、レディスアパレルに若い男性の販売スタッフがいる事は少なかった。あの地域限定かもしれないが。それも俺には有利に働いた。

 ただ、時間は過ぎ、今や2025年で、俺は五十歳のオジサンだ。
すべて、今の自分には全て出来ない事である。だから俺のピークは過ぎた。終わったのだ。

「ハヤカワぁあ!」

 汚い声で、十三歳も年下の上司に呼び捨てにされている。しかし仕方がない。俺が五十歳で、あいつが三十七歳である事には意味もない。あいつが本部長で、俺がただの主任。

 仕方がないが、納得は出来ない。商社を脅すように交渉して低単価な商品を作らせ、WEBの知識と知見を振りかざし、それが『たまたま』当たっただけだ。あいつがやっている事は、ファッションではなく、下請けをギリギリのラインまで責めて、攻めて、旬な何かに金を出して偶像を借りているだけ。

 水商売なんて『高貴』なものではない。ドロドロした黒い、液体とも言えないモノ。

 そんな仕事を、俺はしている。
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