神さま…幸せになりたい…

柊 奏音

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運命の再会 side亘

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詩織がいなくなったのに気づいたのは学会から帰ってきた夜だった。学会中も忙しく連絡ができる状態ではなかったが、実家に行く前に詩織の顔を見たかった。電話をかけても繋がらず、夜勤かな?と思いながら家に帰ると詩織はいなかった。真っ暗な部屋は少し埃っぽく感じた。そして…ダイニングテーブルの上にはスマホと鍵が置いてあった。念のためクローゼットを確認したが詩織の荷物はなくなっていて家を出たんだと思った。

俺に疑いがかけられてることは全て嘘だとわかってくれてると思っていた…なのに…どうしていなくなったのか分からなかった。
次の日、職場で聞くと仕事はすでに辞めていた。一体どこに行ったのか、俺には詩織の居場所の見当もつかなかった。ただ生きててほしいと願っていた。

詩織がいなくなってから、なぜか俺の病院での疑いは一気に晴れた。実家の問題も家政婦がやったと言い出した。おかしい。何かがおかしい。そう気づいたのに俺は何も動けなかった。重役クラスの人のオペを任されたり、重症患者の受入が増えたりして心身共に疲れ切っていった。

そんな中、医院長と美華さんが意味深な事を言っていたのを聞いてしまった。
“あのむすめはいなくなったんだ早くものにしろ。女の武器でも使えばなんとかなるだろう。必要なら薬なり…”
“わかってるわ。あのがいなくなったのは、パパのおかげだもの。なんとか結婚できるようにするから”

もしかしたら詩織がいなくなった原因は2人が関わってるんじゃないかと思った俺は、友人の柴田を頼った。柴田は顔が広くて大学でも有名だった。政界からヤクザまで…俺は医院長と美華さんについての身辺調査を依頼した。

すると詩織と美華さんは俺が学会に行く前に会っていた。その後は会っていない…というか詩織は俺の家から出ていったからだろう…

それと美華さんは、俺と結婚をしたいと言いながらも1人のホストに入れあげていた。自分の給料だけでは足りず、医院長からもずいぶんお金をもらっていることもわかった。きっと俺の給料もホスト代にしようとしているんだろう。

ある時、柴田から美華さんが入れあげてるホストが自分の知り合いの弟だと教えてもらった。俺たちは、その子に頼んで一芝居打ってもらうことにした。ホストクラブのVIPルームで2人きりになりたいと…美華さんは喜んでいたと聞いた。

店側にも協力を仰ぎ、隠しカメラなど準備し、万が一何かあれば乗り込めるように別室で待機までした。

美華さんは、俺と結婚すれば病院の株も上がるし、医院長の顔も立てることができる。俺のことはステータスが高い医者だし給料も高い、顔もまあまあいいから周りに自慢できる。だから俺と結婚をしたい。でも、結婚と恋愛は別だからここにも通えるよ…と。俺との結婚を現実にするのには詩織が邪魔だった。だから排除しようとした。俺と別れなかったら、俺が医者を辞めなきゃいけなくなる状況になると…半ば脅しとも取れる言い方で…お酒も入ってるせいか饒舌に語る彼女にうんざりした俺は、医院長をその場に呼び寄せた。

医院長は美華さんがホストの腕に自分の腕を絡ませ、胸を押し付けている様子を見て激怒していた。美華さん可愛さに言われるがままお金を用意していたが、そのお金がまさかホストに貢いでたとは知らなかったのだろう。しかもあろうことか激怒のあまり、そのお金の出所まで喋ってしまった。診療報酬の水増し請求をしていたこと、製薬会社との裏金など…事務局長を騙してお金を工面していたとは…呆れて何も言えなかった。

医院長が来て、事の重大さに美華さんは焦ったが後の祭りだ…
結果、医院長は不正がバレて逮捕された。病院は大騒ぎだ。何せ医院長自ら不正をしていたとは思ってなかった。 

美華さんは俺の実家の元家政婦の事件に関わってると、取り調べを受けることになった。もう二度と関わりたくない。病院を辞めようと考えていた頃、シンガポールにいる恩師から、こっちに来ないか?とのオファーを受けた。

詩織の居場所もわからない現状に困惑したが、この病院とは関わりたくないと思いスマホも変え、恩師の元で1から勉強しながら働くことにした。

シンガポールに行って、しばらくたってから詩織が札幌に行った所までわかった。
俺は高校からの友人で、同期の西卓也にすぐに連絡をいれた。卓也は小児科を専攻して札幌のこども病院に勤めていたのを思い出した。もしかしたら詩織は小児科の看護師として働いてるんじゃないかと思っていた。個人情報だからバレたらやばいけど見つけたらすぐに連絡すると言ってくれた。

札幌で働いている同期の卓也から連絡をもらったのはつい5日前のことだった。
お前が探してる川原詩織さんだけど、名前も生年月日も合ってるけど…子供、いるんだけど…まだ1歳すぎの男の子だ。

子供?詩織と最後に会った夜にできた子なんだと思った。あの日の俺は早急に詩織を求めすぎて避妊を忘れた。今までそんなことなかったのに…そのことに気づいたのは学会から帰ってきた夜だった。そんな奇跡みたいなことがあるのか?だが迷ってる暇はなかった。恩師に事情を話して急ぎの仕事だけ終わらせて飛行機に飛び乗り日本に帰ってきた。

会いたかった。ずっと会いたかった詩織を前にして俺は何もできなかったこの2年間を恨んだ。もっと早くに探し出してあげていれば…詩織が1人で産んで育てることがなかったのに…

望夢を腕に抱いた時、こんなに大きくなるまで詩織が必死に育ててくれたんだと涙が浮かんだ。ありがとう。感謝しかない。

でも詩織の様子がおかしいのにすぐに気がついた。何度も何度も俺に謝り、望夢を取らないでと…そんな事するはずないのに…勘違いさせてしまった…2年前よりも痩せて小さくなって震えている背中を撫でながら、俺はこの2年間のことを詩織に伝えた。

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