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私だけが知らなかった事実
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「はーい」
玄関のドアを開けると「茜おばさん…」
「ごめんね…退院したって聞いて…」
「とりあえず、どうぞ…」
お父さんのお姉さんの茜おばさんだった。
「亘くん、おばさん来たから…今日は…」
「俺、向こうにいるから…」と隣の部屋に行ってしまった。
「ごめんね。詩織ちゃん大変な時に…実は話があって…」
「なんでしょう…」
「これなんだけど…」
それは父の字で茜へと書いてあった封筒だった
「読んでみて」
何が書いてあるのか想像もつかなくて少し震える手で封筒を開けた。
茜へ
前にも少し話したが、春には詩織が就職が決まったよ。まだまだひょっこだけど香織と同じ病院だ。
やっと詩織も巣立ってくれて嬉しいよ。
まだ詩織には伝えてないんだけど、札幌に転勤が決まった。詩織のこともあって6月からにしてもらったんだけど…期間は未定なんだよ。紗織は一緒についてきてくれると言っている。看護師はどこでも需要があるからな。それでいい機会だしこの家は取り壊して、売ってしまおうと思う。香織は賛成してた。詩織と一緒に駅近のマンションに住みたいって…駅からも遠いから仕事に行くのにちょっと不便って言われたよ。
なので、誠さんに頼んでもらえないだろうか?誠さんなら不動産に詳しいし…
申し訳ないけど、よろしく頼む。
誠さんにはまた連絡すると伝えてほしい。
川原 慎二
「お父さんっ…」
「この手紙の後もやり取りしてて…この家の土地、売るように手配してたの…それで兄さんが旅行に行く1週間前に売れてね、兄さん、旅行の時に詩織ちゃんに話するって言ってたのに…」
「みんな知ってたんだ…私だけ知らなかったんだねっ…」
「詩織ちゃんには卒業のお祝いと共に話たいって香織ちゃんも2人で住める家を探してたの…まさかっ…誰もこんなことになるなんて思わなくて…」
「じゃあ私、この家、出ないといけないんですか?住む家…なくなっちゃうの?私…」
「詩織は…俺が引き取ります。俺の家に連れて帰ります」
「亘くん…っ」
「あなたは?」
「安斎 亘です。香織と同級生で詩織の事は小さい頃から知っています。仕事は脳外科医をしています。実家はこの近所なんですが、駅前のマンションに住んでいます」
「いやっ…でも…いくら小さい頃から知ってると言っても、そんな赤の他人にお願いするなんて…詩織ちゃんさえ良ければ家に来ない?落ち着くまででいいから…」
「私っ…は…もう少し…ここにいたいですっ…」
「詩織ちゃん…実はね…あと2週間後に取り壊す工事が始まるの…急なんだけど…考えてもらえる?」
「…それしか…時間ないんだ…わかりました…」
これからどうしよう?それしか頭の中にはなかった…家族4人分の荷物の整理も…何もかも1人でやらないと思うと私には荷が重すぎる…
「じゃあ帰るわね。また連絡するから」
「はい。気をつけてください」
おばさんは帰って行った。玄関のドアが閉まった途端、どうしようもない不安に胸が押しつぶされそうで、目の前が暗くなり怖くてその場にしゃがみ込んでしまった…
「…詩織…今はもう何も考えるな。頭ん中がパンクするから」
亘くんがそう言って抱きしめてくれたけど、私の耳には届かずそのまま気を失ってしまった。
長い長いトンネルを歩いているようだった…誰もいなく、どこか遠くで誰かの声が聞こえてる…でも私は当てもなく真っ直ぐな道をただ一人で歩いていた。
このままでもいい…このままがいい…何も考えずにこの空間にいられればと…
「詩織、詩織、目を覚ませ、目を覚ましてくれ頼むから…」
暖かい手が私の手を掴む。あったかい…
玄関のドアを開けると「茜おばさん…」
「ごめんね…退院したって聞いて…」
「とりあえず、どうぞ…」
お父さんのお姉さんの茜おばさんだった。
「亘くん、おばさん来たから…今日は…」
「俺、向こうにいるから…」と隣の部屋に行ってしまった。
「ごめんね。詩織ちゃん大変な時に…実は話があって…」
「なんでしょう…」
「これなんだけど…」
それは父の字で茜へと書いてあった封筒だった
「読んでみて」
何が書いてあるのか想像もつかなくて少し震える手で封筒を開けた。
茜へ
前にも少し話したが、春には詩織が就職が決まったよ。まだまだひょっこだけど香織と同じ病院だ。
やっと詩織も巣立ってくれて嬉しいよ。
まだ詩織には伝えてないんだけど、札幌に転勤が決まった。詩織のこともあって6月からにしてもらったんだけど…期間は未定なんだよ。紗織は一緒についてきてくれると言っている。看護師はどこでも需要があるからな。それでいい機会だしこの家は取り壊して、売ってしまおうと思う。香織は賛成してた。詩織と一緒に駅近のマンションに住みたいって…駅からも遠いから仕事に行くのにちょっと不便って言われたよ。
なので、誠さんに頼んでもらえないだろうか?誠さんなら不動産に詳しいし…
申し訳ないけど、よろしく頼む。
誠さんにはまた連絡すると伝えてほしい。
川原 慎二
「お父さんっ…」
「この手紙の後もやり取りしてて…この家の土地、売るように手配してたの…それで兄さんが旅行に行く1週間前に売れてね、兄さん、旅行の時に詩織ちゃんに話するって言ってたのに…」
「みんな知ってたんだ…私だけ知らなかったんだねっ…」
「詩織ちゃんには卒業のお祝いと共に話たいって香織ちゃんも2人で住める家を探してたの…まさかっ…誰もこんなことになるなんて思わなくて…」
「じゃあ私、この家、出ないといけないんですか?住む家…なくなっちゃうの?私…」
「詩織は…俺が引き取ります。俺の家に連れて帰ります」
「亘くん…っ」
「あなたは?」
「安斎 亘です。香織と同級生で詩織の事は小さい頃から知っています。仕事は脳外科医をしています。実家はこの近所なんですが、駅前のマンションに住んでいます」
「いやっ…でも…いくら小さい頃から知ってると言っても、そんな赤の他人にお願いするなんて…詩織ちゃんさえ良ければ家に来ない?落ち着くまででいいから…」
「私っ…は…もう少し…ここにいたいですっ…」
「詩織ちゃん…実はね…あと2週間後に取り壊す工事が始まるの…急なんだけど…考えてもらえる?」
「…それしか…時間ないんだ…わかりました…」
これからどうしよう?それしか頭の中にはなかった…家族4人分の荷物の整理も…何もかも1人でやらないと思うと私には荷が重すぎる…
「じゃあ帰るわね。また連絡するから」
「はい。気をつけてください」
おばさんは帰って行った。玄関のドアが閉まった途端、どうしようもない不安に胸が押しつぶされそうで、目の前が暗くなり怖くてその場にしゃがみ込んでしまった…
「…詩織…今はもう何も考えるな。頭ん中がパンクするから」
亘くんがそう言って抱きしめてくれたけど、私の耳には届かずそのまま気を失ってしまった。
長い長いトンネルを歩いているようだった…誰もいなく、どこか遠くで誰かの声が聞こえてる…でも私は当てもなく真っ直ぐな道をただ一人で歩いていた。
このままでもいい…このままがいい…何も考えずにこの空間にいられればと…
「詩織、詩織、目を覚ませ、目を覚ましてくれ頼むから…」
暖かい手が私の手を掴む。あったかい…
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