『笑顔のパン屋さん』

シエル

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プロローグ

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目を開ける、焦点が上手く定まらない、寝起きの朝よりも酷い。
そんな曖昧な視界の中でもこれだけは分かる、家の中は酷い有様だ。
タンスは崩れ、食器が溢れかえっている。めちゃクチャだ。何があったのか、脳の理解が追いついていない。
なんとか体を動かそうとするが何か重くて生温かいものが私のお腹にのしかかり力を込めても動かない。
顔を上げ正面を向く、その瞬間赤くドロドロしたものが、私のおでこに
ポツリと一滴一滴こぼれ落ちる。これはなんだ、気持ち悪い・・・
だんだんと視界が戻り目の前の有り様が確実に私の瞳の中に迫る。
これは血だ。
頭から血を流しうつ伏せで私にのしかかっているのは2歳上の兄だ。
「お兄ちゃん?」
返事は無い、目を閉じたまま動かない。
兄の血が一滴、また一滴と私の頬を伝う。兄に何度も呼びかけるが一切の返事は無い。心臓がドクンと動き始めるのが分かった。
ああ、そうか地震が起きたんだ。
それも考えられないくらい大きな地震が。
兄の頭の出血は止まる事をやめない。
私はひたすら大きな声で兄の名前を何回も、何回も連呼する、その声はもう兄の耳に届かないと心の奥では理解しながら・・・

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