ヴレイン・ヴレイド―VR剣戟格闘アクションゲーム―

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第5話 揺らめき

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 昼休みの教室。授業の静けさが談笑に切り替わる。
 優希はそれをイヤホンで遮る。だが、それを貫通する大声が教室の端から届いた。
「優希ーーー!! 一緒に食べよーーー!!」
 優希は声の方を見る。そこにいるのは三葉。それと二人のクラスメイト達。三葉は笑顔で手をブンブンと振るが、他の二人は怪訝な表情を浮かべていた。だから優希は一人の世界へ戻った。
「無視ですかーーー!!」
「やめなよ、三葉。」
 ショートの女生徒が三葉を諫める。
「あいつ、あんまり良い話聞かないよ。関わんない方がいいって。」
「じゃあ良い話を聞かせてあげようっ!!」
 三葉はニッっと笑って人差し指を立てる。
「まず一つ!! 道に迷ってる私に道を教えてくれた!!」
「二つ!! 信号の先では私を待っててくれた!!」
「三つ!! 坂道で私を押してくれた!!」
 三葉が指を三本立てて、ショートの女生徒に突きつける。
「優希はツンデレなだけ。絶っ対仲良くなれる!!」
 ショートの女生徒は勢いに押され目を丸くする。三葉の声が大きかったからか、それとも優希の行動が意外だったのか、クラス中の視線が三葉に集まっていた。そして、その視線が今度は優希の方へと集中する。
「――っ!!」
 優希はそこから逃れるべく、壁を見つめる。
「ツンデレだぁーーー!!」
 逃げてはダメだ。三葉を黙らせなければ被害が拡大してしまう。
 優希は素早く立ち上がると、三葉の車椅子のハンドルを握る。
「ちょっとコイツ借りるね。」
 優希は他の二人に軽く詫び入れると、三葉を連れ出そうとする。女生徒たちは特に止めはしない。だが三葉は抵抗した。
「ブレーキかけんな……!」
 車椅子はその場に留まる。優希はそれに眉をしかめると、ブレーキを解除しようと手を伸ばす。だが、三葉が手首をつかんでそれを許さない。
「早くご飯食べようよ~! お腹空いたって~!」
「私は――!」
「剣崎さん。」
 ショートの女生徒が声をかける。
「一緒に食べない?」



 優希が人付き合いを諦めたのは高校一年の頃だった。きっかけは所属していた剣道部。優希は幼い頃から剣術を叩きこまれていたため、一年生ながら全国大会のメンバーに選ばれることになった。
 だが、それが良くなかった。プライドを傷つけられた先輩から嫌がらせを受けるようになる。
 優希は実力で勝ち取った。その力さえ彼女にとっては地獄の日々を生き抜いて与えられたものだ。それを知りもしないくせに嫉妬するのだ。忌み嫌うのだ。
 だから優希は諦めた。本当の自分を見せることを辞めた。目立たず波風立てず生きることを決めた。
「剣崎さんってお弁当なんだ。」
 これも平穏な生活のためだ。優希は椅子と弁当箱を手に輪の中に加わる。
「もしかして手作りっ!?」
 三葉は目を輝かせて弁当箱へ視線を向ける。何の変哲もない弁当なのだが、事実として優希はうなずいた。
 優希は着席して弁当の蓋に手をかける。ただ、三人の視線が突き刺さり、非常に開けづらい。
「おぉ~! ちゃんとしてる!」
 平凡と言えば平凡。だが、彩りと栄養バランスの考えられたおかず、白米に映える真っ赤な梅干しの素朴さが三人の心を掴んだ。
「卵焼きって家の味出るよね~。」
 三葉がフォークで卵焼きを攫う。
「んっ、うまっ! 優希も砂糖派なんだ。」
 彼女は一口で卵焼きを放り込むと、次の獲物を品定めする。
 そして、再びフォークの魔の手が伸びる。だが、それは虚しく机をカツンと突っついた。
「全部取る気?」
 優希は弁当箱を手に持って強奪を阻止する。三葉は少しの間隙を伺ったが、諦めて自分の弁当に向き合った。
「じゃあこれあげる。」
 三葉のフォークの先に刺さったのは真っ赤なプチトマトだ。彼女はそれを優希の口元に運ぶ。
「あ~んっ。」
 三葉は笑みを浮かべるが、魂胆が透けて見える。彼女はプチトマトが嫌いなのだろう。交換という名目で押し付けようとしている。
「食べないから。」
 それでも三葉は諦めずに押し付けてくる。
「あっ……。」
 攻防の末、不意にも優希は唇でプチトマトに触れてしまった。
「……ごめん。」
 優希は触れてしまったことを詫びる。
「私、食べるよ。」
 無論、三葉が悪いのだが、口が触れた物を食べさせるのは良くないだろう。そう思い優希は弁当箱を差し出す。
「あ~んっ!」
 三葉は悪戯っぽく笑う。別に悪意があるわけではない。それが彼女の距離感なのだ。ただ、優希にはあまりにも近すぎる。
「ここに置いて。」
 優希は卵焼きが入っていた場所を指さす。三葉はその意味を理解するが、それには従わなかった。
「じゃあ、めぐちゃん!」
 三葉はショートの女生徒に対象を変える。三葉はあーんがしたいだけらしい。それが拒否されるともう一人へ変える。だが、当然それも拒否される。
「私が食べるから……!」
 優希が再度弁当箱の隙間を指さす。だが、それには目もくれない。
「しょーがない。」
 三葉はプチトマトをパクリと頬張った。その瞬間、三人の空気が凍る。
「な、なにしてんの……!?」
 優希は目を見開いて動揺した。いわゆる間接キス。同性とはいえ抵抗はあるだろう。
「あーんできないなら自分で食べるよ。プチトマト好きだし。」
「えっ、いやそうじゃなくて……!」
 プチトマトは押し付けられたものではなかったらしい。だが、それは些細な話だ。本題ではない。
「あー、別にちょっと口についたくらい良くない? 口の中だったらちょっとアレだけど。」
「優希なら全然オッケー!」
 三葉は親指を立ててウィンクする。しかし、優希は全然オッケーではなかった。唇に触れたプチトマトの感触が忘れられない。
「あれぇ~優希、顔赤くなぁ~い? プチトマトみたぁ~い。」
 優希は黙って三葉の弁当箱から焼き魚の切り身を奪った。
「あぁっ!! シャケがっ!!」
 三葉は優希を睨むが、優希は目を伏せて知らんぷりを通す。三葉はその態度に納得できず、睨む視線の先を変える。
「ひどいよねっ!? メインディッシュだよ!?」
 三葉は二人に同情を求めた。
「三葉が悪い。」
「うん。」
 三葉は切り身のようにバッサリ切り捨てられた。



「ずいぶんとご機嫌ですね、幽鬼《スペクター》。」
「……どこが?」
 授業が終わり、逃げるように優希は帰宅した。課題を終わらせて剣戟世界へと沈む。
「声色が少し柔らかいではありませんか。」
「気のせいでしょ。」
「確かめますか?」
 道化師《ジョーカー》は指を鳴らすと波形データを表示する。幽鬼はそちらに視線を向けることなく、ただ静かに剣を振るう。
「……どうでもいい。」
 声色に少しの苛立ちが混ざる。それは後に控えている戦いのせいだ。しかし、それだけではない。自らの心の中にわき出した微かな喜び。それが気に入らなかった。
<<対戦者が見つかりました。>>
 アナウンスと共に幽鬼の前にその姿が映し出される。名は遊戯《セネト》。同じ白金《プラチナ》ランクの上位層だ。
<<こちらは昇格戦になります。ご武運を。>>



 遠くまで広がる視界に映るのは雲一つ無い青空。そして、それを二分する黄金の砂。灼熱の太陽が地を焼き、陽炎が揺らめく。
 幽鬼の眼前に現れたのは、褐色の女。右手には蛇のようにうねる剣。白と金の服飾は太陽の光をまばゆく反射している。
 そして、二人の剣士が対峙する。
<<開戦《エンゲージ》!!>>
 開幕早々に幽鬼《スペクター》が仕掛ける。縮地による急襲戦法。だが、いつもよりもスピードが乗らない。その剣はたやすく遊戯《セネト》に受け止められる。
「砂漠は慣れてないみたいだね。」
 砂の不安定な足場、起伏のある地形。直線的な攻撃を得意とする幽鬼には相性が悪い。
 とはいえ、幽鬼の攻撃は決して甘くない。それを受け止めるには確かな技量が求められる。遊戯《セネト》の動きは間違いなく手練れのものだ。
 幽鬼は押し合いの分が悪いと踏み、一度距離を取る。
「砂漠ならこういうのも気を付けないとね!」
 遊戯は思い切り砂を蹴り上げる。舞った無数の砂粒が幽鬼の視覚を奪おうと襲い掛かる。だが、そのほとんどは瞼に遮られた。
 しかし、それは視界を遮断するということだ。ほとんど目論見通りと言っていい。
 遊戯の剣が幽鬼に振り下ろされる。
「へぇ、やるね。」
 幽鬼が目を開いた時には既に寸前まで剣は迫っていた。だが、幽鬼は驚異的な反射神経によってそれを防いでみせた。
 そして、返す刀で首筋を狙う。剣と剣が交わり火花を散らした。
「お返し!」
 幽鬼は交わった剣を支えにして前蹴りを叩きこむ。砂を蹴るよりも直接的な攻撃を選んだ。
 腹部に蹴りを貰い、遊戯は後ろによろめく。それでも倒れはせず、剣を構えて防御の体勢を築く。
 そこからは一方的だった。幽鬼の猛攻が遊戯に傷を増やしていく。とてもではないが、剣技で防ぎきることなど不可能だった。
「防術《ガードスキル》――!!」
 ゆえにスキルを使う。それを幽鬼は読んでいた。
「剣術《ソードスキル》――、」
 完璧な展開。順調に事は運んでいた。
「幻影呪刺《ファントムペイン》!!」
 その一撃が遊戯の心臓を貫いた。
「急ぎ過ぎたね、幽鬼《スペクター》!!」
 確かに心臓を貫いた。だが、遊戯は倒れない。何事もなかったように立ち続ける。そして、与えたはずの傷さえも痕跡を残さず消え去った。
 そして幽鬼は膝をついた。立っていられなかったからだ。
 彼女の左腕とその手の剣、それらが黄金に蝕まれていた。不揃いな四角柱の凹凸が太陽に照らされて鈍い光沢を放つ。
怒れる黄金の王カース・オブ・ファラオ。割とマイナーだから知らないかもね。」
 そのスキルは防術《ガードスキル》でありながら、攻撃を防がない。発動中に攻撃を受けることで効果を発揮する。発動中に受けたダメージは無効化され、そのダメージが大きい程、相手にも大きな闇属性のデバフを付与する。
「でも覚えておいた方がいいよ。怒れる黄金の王カース・オブ・ファラオは防術《ガードスキル》対策の対策に最適だからね。」
「たっぷり教えてあげるよっ!」
 大ぶりな一撃。躱すのはたやすい。カウンターもできるだろう。だが、幽鬼は斜面を転げ落ちるように避ける。金塊と化した左腕が重すぎるからだ。
 そして、もう一撃。今度は避けられない。それでも、金塊の左腕を利用して攻撃を防ぐ。
「お返しだっ!」
「ぅぐぁッ――!!」
 強烈な蹴りが幽鬼の脇腹に突き刺さる。身体が砂と共に舞い上がり、隆起した砂山に叩きつけられる。
「剣術《ソードスキル》――!!」
冥府の誘いポイズン・アヌビス!!」
 遊戯《セネト》の剣に黒紫の煙がまとわりつく。その刃でわずかでも傷を負った場合、三十秒後に即死する呪いを受ける。もし、ここで食らえば遊戯は逃げるだけで勝てる。今の幽鬼には追い詰めることができないからだ。
 不安定な体勢。剣も腕も防御には使えない。確実に防ぐならスキルを使うべきだ。
「なッ――!?」
 だが、幽鬼はそうしなかった。立ち上がることを諦め、足を伸ばして靴底で剣先を抑える。物理的な威力が低い剣術だからこそできる芸当だ。そして、空いた片足で遊戯の足を引っ掛けてバランスを崩させた。
 遊戯は下りの斜面でも転倒にはいたらなかった。だが、上を取った幽鬼が剣を振りかざす。
 重たい分、大ぶりになる。だが、威力も上がる。遊戯は防ぐことができないと瞬時に理解し、後退して回避した。その時、視界から太陽が消えた。
(しまったッ――!!)
 遊戯《セネト》は砂山の影に入り込んでしまった。対幽鬼《スペクター》において気を付けなければならない要素。それは影だ。
「黒影潜転《シャドウダイバー》ッ!!」
 影に入り込んで身を隠す防術《ガードスキル》。影に包まれた遊戯には予測ができなかった。だが、姿を現せば確実に気づく。そして、大ぶりな攻撃なら防御が間に合う。
 幽鬼は剣を右手に持ち変えていた。剣は振りにくいが、これならば左右のバランスは取りやすい。そして、攻撃は剣だけではない。
 幽鬼は金塊の拳を構える。だが、遊戯もすでに剣での防御の構えだ。流石の瞬発力だが、判断を間違えていた。
「幽骸《リビングデッド》……!!」
 短時間の間、任意の接触判定を無視する戦術《タクティクス》。本来は回避や移動に使うスキルだ。
「ァガッッッ――!!!!」
 幽鬼の拳が剣をすり抜け、遊戯の脳天をかき回した。そして、砂の上に何度も叩きつけられ転がっていく。
 致命傷ではない。だが、遊戯は立ち上がれない。視界が歪み、平衡感覚が失われていた。頭部への強い衝撃による脳震盪だ。
 そこに幽鬼が迫る。陽炎に揺れる彼女の姿は、まさしく死神亡霊。
(考えろ考えろ考えろッ……!!)
 遊戯《ネセト》はまとまらない思考から勝利の可能性を導き出そうと自らを叱咤する。
 だが、答えは一つしかない。わずかな可能性に託す。
「……必殺術《ファイナルスキル》、」
死者の氾濫ナハル=オシリス……!!」
 突如として現れた細い腕が幽鬼の足を掴もうとするが、それよりも速く剣が手首を貫いた。しかし、それで終わりではなかった。
 幽鬼を取り囲むように砂の中から腕が現れる。そこから、頭部、肩、胴体、と徐々にその全身像を露わにしていく。その肉体は痩せ細り、全身が包帯に覆われている。その数はおおよそ六十余り。遊戯《ネセト》との間を埋め尽くしていた。
 幽鬼はその死者の壁を切り裂いていく。すでに黄金の呪いは解け始め、本来の動きを取り戻しつつあった。
 死者の動きは鈍重で、身体は脆い。それでも圧倒的な物量は突破に苦戦する。
 飛び掛かってきた死者を幽鬼の剣が貫く。しかし、それでは致命傷に至らず、幽鬼の腕を掴んで拘束する。幽鬼は前蹴りで突き飛ばすものの、その隙に一人二人と組みつく。その力は外見からは想像できないほど強く、強引に振りほどくことはできない。
「う˝ぅ……あ˝ッ……!!」
 背後からまた一人、幽鬼の首を両手で締め上げる。そして、前方からも魔の手が迫る。
 幽鬼はすかさず右手の剣を逆手に持ち替える。そこから手首のスナップを利用して背後の敵を切りつけた。致命傷に至らずとも力は弱まる。
 さらに逆手から順手に持ち替える。剣の重み、指の力、使えるものを全て利用し、右側の死者の足を切断した。体勢が右側へと崩れる。そして、掴みを振り解く勢いのまま剣を振るい、周囲を薙ぎ払った。
 死者の壁を突破し、ついに遊戯《ネセト》の元へたどり着く。だが、すでに彼女は立ち上がり、剣を幽鬼へ向けていた。
「これで五分五分ってところかな?」
 互いに手負い、残すスキルは一つ。必殺術《ファイナルスキル》を残す幽鬼と、体力で優勢な遊戯《ネセト》。油断は許されない。 幽鬼は剣を呪いの解けた左手に持ち替えた。
「必殺術《ファイナルスキル》――、」
「焦りすぎだって。」
 幽鬼は速攻で自らの優位を消費する。あまりにも勇み足が過ぎる。
「惨劇開幕《グラン・ギニョル》。」
 全身を使った一瞬の横薙ぎ。その一撃が開幕の合図だ。
 幽鬼の剣が遊戯を切り裂き両断する。だが、手ごたえがない。
「――偽葬《フェイク・デッド》。」
 遊戯の身体は砂で出来ていた。切断されると同時に全身が砂と化して舞い散る。そして、その砂を突き破るように遊戯が刺突の構えで現れる。
「僕はすでに戦術《タクティクス》を発動していたんだ。君が死者の群れと戦っている間にね。」
 偽葬《フェイク・デッド》。発動後に致命傷となる一撃を受けた場合、偽物《ダミー》プレイヤーがそれを肩代わりする。そして本物のプレイヤーはその周囲三メートル以内の場所にワープする。
「これで僕の優勢だ!」
 遊戯の刺突が迫る。幽鬼は空振りした剣では間に合わないと判断し、バックステップを行う。それでも足りず、幽鬼は右手で剣を受けてしのいだ。
「いつまで持つのかなっ!?」
 遊戯は攻撃の手を緩めない。疲労と傷、幽鬼は押されている。押し勝てる。そう思っていた。
 だが、一撃。幽鬼の放った突きが遊戯の左肩を掠めた。遊戯の攻撃は続けられていたのにも関わらずだ。
「なんでッ――!?
 気づけば攻守は入れ替わっていた。遊戯の白い服が血の赤に染まっていく。
「単純な話。」
 幽鬼の放った切り上げが遊戯の剣を捉え、彼女の手から離れた。
「あなたのスキルはどれも防御寄り。しかも、デバフとか数的有利とか、自分の劣勢を覆すものばかり。」
 剣を追う遊戯の背後から幽鬼が迫る。言葉と行動、肉体と精神が追い詰められていく。
「つまり、剣技に自信がない。」
「ッ――!!」
 遊戯が剣を掴んだ瞬間、鋭い痛みが彼女を襲う。胸を貫かれ、滴る血が砂を赤黒く染めていく。
「だ、から……スキル、を……!!」
「うん、使わせた。」
<<終戦《オーバー》!!>>
<<勝者、幽鬼《スペクター》!!>>
<<金剛《ダイヤ》ランク昇格、おめでとうございます。>>



「……つまらん相手に手を焼いたな。」
「兄さんは厳しすぎます。死者の氾濫ナハル=オシリスの突破は見事でしたよ。」
 空間モニターに映る幽鬼を二人の男女が評論していた。二人の容姿はよく似ているが、性格は対照的なようだ。
「お前は甘すぎる。いつまで金剛《ダイヤ》で足踏みするつもりだ。」
「金剛《ダイヤ》でも全体の上位三パーセントなんですよ!」
「お前はもっと強くなれる。」
 兄の男はモニターのシークバーを戻して戦闘を振り返る。どうやらそれは初めてのことではないようで、妹は呆れた様子で席を立った。
「幽鬼《スペクター》、お前もだ。」
 広いリビングに一人、ただ音声が流れ続けていた。

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