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二十二話
しおりを挟むけれどすんでのところで父親が助けに飛び込み、難を逃れることができた。そのときに負った怪我がもとで父親は命を落とす。以来ジュリオは母親とふたりで生き、父親の代わりに母親を守っているのだそうだ。
人間好きのバルバトスはジュリオを憐れに思い、自分の国で暮らせば幸せにしてやると誘う。まるで求婚のような言葉にジュリオは笑うと、いつか大人になり結婚ができるようになればと断る。
家路に急ぐジュリオの背を見送りながら、交わした約束は必ず果たすと心に誓う───
「人間界で大人とは十六歳だろう。だから俺はおまえが大人となる日を待っていたのだ。まさか迎えに向かった日に、おまえを危険から助けようとは思わなかったがな」
母親譲りの美貌を持つジュリオ。バルバトスが現れなければ、きっと今頃は枢機卿の慰み者となっていただろう。すべてを理解したジュリオは、遠い日の記憶を取りだすように訥々と思いだしたことを話しだす。
「まだ僕が幼い頃に父さんが亡くなって、母さんは僕を育てるためにお針子の仕事に出るようになったんです。帰って来るのも遅くて、だから僕にできることは自分でしようと食事の支度をするようになりました。
そうは言っても難しいことはできないので、森で木の実を集めたり湖で魚を捕まえたり簡単なことですが。確か収穫祭を迎えるまえでしょうか、グースベリーを摘もうと森に出かけると黒くて大きな鳥さんに出会いました」
「あの鳥さんはバルバトス様だったのですね」とジュリオが問うと、バルバトスは小さくうなずき「ああ、そうだ」と答える。ふたり出逢いの日を思い出してくれたことが嬉しいのか、バルバトスは相好を崩してジュリオを抱きよせた。
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