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十七話
しおりを挟む母親の許に返して欲しいとバルバトスに言えないまま朝が過ぎ、昼食を楽しむためバルコニーに移動する。向かい合うようにテーブルへ着席すると、よしと覚悟を決めて願いを口にする。
「バルバトス様、お願いがあります」
「なんだ」
「僕がこの王宮にお邪魔してもう半月が経ちます。きっと母さんが心配していると思うので、僕そろそろ家に帰ろうと──」
「だめだっ!」
それまで艶然と柔らかだった表情は一転し、バルバトスは目をつり上げ怒りをあらわにする。地響きがするほどの怒声に飛び上がり、手にするカトラリを皿のうえに落としてしまう。
「ごごご、ごめんなさい……あの、僕……」
願いを一蹴されてしまったジュリオ。耳障りな音を立ててしまったことに謝りながら、恐怖と悲しみに我慢ができず涙をこぼす。だけども一度機嫌を損ねたバルバトスは、ジュリオの謝罪など受けつけようとはしない。
魔王の怒りと連動するように、みる見る宮殿の外は嵐に荒れてゆく。雷鳴が轟き岩山が溶岩を流すと、一面は紅蓮に包まれてしまった。
席から立ち上がったバルバトスから真空の圧力が発生し、テーブルがバルコニーの柵を越え吹き飛ぶ。いよいよ恐怖にとらわるジュリオの腕を掴むと、バルバトスは室内に引きずっていく。
それまで唯一外気に触れることのできたバルコニーはバルバトスの魔力により消滅し、ふたたび窓は消えると無機質な壁に戻ってしまう。意味をなさないカーテンを涙にかすむ目に映しながら、ジュリオは心に灯る生の焔を消してしまうのだった。
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あらすじ
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