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第三章 指切
第五十一話
しおりを挟む鬱憤を晴らすように豪遊し、夫などいないかのように朝帰りをする。当然ながら遊ぶための資金は夫の給料から出ている、一大にとって非常に不愉快でしかない。
これなら妻が浮気でもしてくれたほうがましだと思うようになった。もしかするとすでに浮気をしているかもしれない、妻の友人には独身男性も含まれている。
だとすれば自分に優位な離婚ができると一大は考え、定期的に興信所をつかい妻の素行調査をすることに。今のところ手ごたえはないが、そう遠くない日に尻尾をだすと機会をうかがう。
すでにふたりの夫婦仲は冷え切り、火の灯らないキッチンもさめざめとしていた。
これらが華やかな結婚式から二か月のあいだに起きたこと、よりいっそう一大の気持ちは遥希に向かうことになる。
妻の浮気を疑うようになると、今度はほんとうに浮気されていると思い込むようになってしまった。はじめは”そうであれ”という願いから、疑心暗鬼が手伝い被害妄想に陥るように。
浮気相手と自分のことを悪く言っている、金を稼ぐだけのATMと思われている、自分は必要とされていない、家に居場所がない。
徐々に妄想は膨らみ今では抑えることすら難しい。なにが正しいのか判断がつかず、まるで糸の切れた凧のように一大は心許なかった。
そんなときふと脳裏に浮かぶのは遥希の顔だ。寝ても覚めてもまぶたを閉じるだけで遥希のすがたが浮かぶ。笑顔や怒った顔、悲しそうな表情それに気持ち良さそうに喘ぐ顔。
頭のなかが遥希でいっぱいになると、業務にも支障をきたしてケアレスミスをくり返すように。先輩社員にフォローをしてもらい危機を免れているが、いつ取り返しのつかないミスを犯すか心配だ。
この状況をなんとかしない。そこで一大はひらめいた、悪循環を脱するには理性の楔をひき抜けばいいと。
もう一度、断われれば何度でも、遥希を口説いて恋人になってもらおう。妻や龍哉に遠慮など要らない、心のままに従おう。そうすれば不安はなくなって元通りになる。
一大は異常な道理をたてると行動に移すことにした───
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