泣いて謝っても許してあげない

第三章 指切

第三十三話

　妻には子を連れ出ていかれ、元凶の女に制裁を加えた結果その夫から訴えると出勤まえに突撃された高峻は、身も心も疲れ果てボロボロになっているようだった。

　龍哉とつき合うようになってから高峻の誘いをさり気なく断っていた遥希、けれども肉体のつながりからくる情が彼を放っておけないと本能に訴えかける。

　話を聞いてやるだけのつもりだったが、あまりにも不憫な彼に同情して声をかけてしまう。

「高峻──久しぶりにホテルにいきましょうか。俺が慰めてあげる」

「……遥希」

　遥希の誘いに曇った表情をあげる高峻、「いいのか」と遠慮気味に問う。それには「ええ。最近ずっと断わってばかりだったので」と困った表情で返す。

　今頃は龍哉も客とのアフターで盛っているだろう。遥希とて操をたてるほど従順なつもりはない、彼に対し遠慮などは必要ないのだ。

　離婚にせよ別居にせよ、もとの睦まじい家族には戻れないだろう。心安らぐ場所を失った高峻の居場所になってやれるのは遥希しかいない、たとえそれがかりそめであっても。

　遥希に生きる道を与えてくれたのは高峻だ、できるかぎり力になってやりたい。すがりつくような表情をした高峻を見ながら、遥希はぼんやりと考えるのだった。