泣いて謝っても許してあげない

第三章 指切

第三十話

「妻の論破に一度は引き下がってくれたようだが、自分の夫とは雲泥の差があることに嫉妬したその女が子供に俺の家庭のことを色々と訊いたそうだ。

俺の息子とは友人関係にあるその子が、母親に質問攻めにされたことを不審に思いつぎの日それを息子に話したらしい。暮らしは豊かなのか俺の職業は何だと訊かれ、息子も友人も困ったようだ。

俺は息子と娘にはホストであること、店を構えていることは伝えていない。決して恥じているわけではないし、後ろめたい職業だとも思わない。

夢と水を売りそれを客が買う。俗世で溜まったストレスを俺たちが吸い取ってやり、また明日も頑張るぞという元気と笑顔の活力を与えるのが仕事だ。芸を売るのは立派な職業だろう──」

　高峻のホスト業における信念には誇りと固い決意があった。それらを語る彼の表情には生気を感じられたが、息子の友人親の説明へと移るにつれ死人のように血の気が失せる。

「ゆうべのことだ。妻から別れを切り出された。俺自体に不満があるわけじゃない、子供の未来のためだって言われたよ──」

　彼の妻に絡んできた息子友人の母親は、参観日以降ずっと妻に粘着をしてきたそうだ。はじめのうちは優雅な暮らしを羨ましがっていただけのようだったが、そのうちにプライベートなことを知りたがるようになる。

　主に高峻の年収や妻にどれだけ優しいのか、果ては夜の営みについても追及されたという。息子同士が仲良くても親同士はその限りではない、そんなことを他人に教える趣味はないと断ると相手が狂人となったそうだ。