泣いて謝っても許してあげない

第三章 指切

第二十四話

　また愛妻家としても知られる彼は、自身が最も大切なのが何かを主張しており、遥希と只ならぬ関係であっても本気にはならないと安心していた。だからこそ見ぬふりができたのだ。

　けれど最近になり遥希と高峻の温度差に違いが生じていることに気づく。ふとしたときの思いつめたような遥希の表情や態度に、妻子ある高峻を本気で愛してしまったのでは──と、龍哉は不安だったのだ。

　だがそれが杞憂だったと遥希の涙で知る。彼に幼馴染がいることは聞いていたが、よもやそんな関係であろうとは思いもしなかった。

　遥希の痛みは龍哉の痛みでもある。辛さが伝わり龍哉もまぶたを閉じ痛みに耐える。けれどそれ以上に龍哉の心に拡がる感情は、決して口にはできない歓喜だった。

　まさか遥希に本命がいたことには驚いたが、それと同時に彼らの関係が潰えたことは朗報でありチャンスでもある。敗れた恋とは痛手だ。けれどそれならば傷を癒す相手が現れればいい。

　そしてその相手とは龍哉だ。傷心につけ込む行為とは理解するが、それでも龍哉は身体だけではなく遥希の心も欲しかった。歔欷きょきする遥希に龍哉が優しく攻める。