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第三章 指切
第十九話
しおりを挟む「あーあ、ったく冷てえやつ。ちょっとぐれえ優しくしろよ。こんなに愛し合ってるっつーのに、よくもまあそんな冷淡になれるもんだぜ」
「語弊があるようなので訂正しておきますが、俺と龍哉さんのあいだに心の絡む愛情は存在しません。愛し合うとはいっても、それはベッドの相手というだけでしょう」
「はあ? よく言うぜ。俺に攻められて散々喘ぎまくるくせによ。悪いこた言わねえ、俺にしとけって」
「あのひとには奥さんと子供もいるぞ」と言いかけ、けれど口にはせず呑み込む。すっきりとしない龍哉の言葉尻に遥希は引っかかりを覚える。
そういえば帰宅途中にも龍哉は含みのある態度を取っていた。高峻との関係は薄々気づいているのだろうが、もしかすると遥希が高峻相手に本気の恋愛をしていると取り違えているのではないか。
だとすれば訂正しておかなければ後々厄介なことになりかねないが、けれどそれをすれば高峻との関係を肯定することになってしまう。やれやれ面倒だと遥希はうんざりする。
そんな遥希の心情を察したのか、龍哉は空気を読み「とにかく俺にしとけって、な。俺はお買い得だぞ。それに一途だ。ビジネス上女は切れねえが、心はおまえだけのものだ」と斜め上の殺し文句を披露、遥希を心底あきれさせた。
下着一枚の格好から、脱ぎ散らかしたスーツを羽織り帰り支度をする龍哉。玄関で腰を下ろし革靴に足を通していると、来客を知らせるベルが鳴った。
「んあ? 誰かきたみてえだぞ」
ドアに視線を向けながら遥希に伝える。寝室でラフな格好に着替えていた遥希は、インターホンを受けにリビングに向かった。
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