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第三章 指切
第十三話
しおりを挟む彼は大手医療機器メーカーの花形営業職勤務、大企業のエリートとして第一線を走っている。
一大との逢瀬はともに成長過程をいくのと並行してつづいている。けれど企業エリートにスキャンダルはご法度、男と肉体関係にあるなどネックでしかない。
遥希が悩むのはそれだけではない。仮にふたりの関係が世間に露呈したとしても、彼を養うだけの財力が遥希にはある。けれども一大が望んだ仕事を奪う存在になるのだけは嫌だった。
もしも遥希が歓楽街のキングを称される高峻から店を譲渡されるとして、さすればたちどころに噂が広まってしまうだろう。ひとの口に戸は立てられないのだ。
幼馴染にホストがいるというだけで外聞が悪いホワイト企業、第一線で活躍する営業マンの足を引っ張る迷惑な存在にはなりたくなかった。
だからこそ永らく友人としての関係も闇に隠し、ひっそりと逢瀬を重ねるだけの日陰の間柄と甘んじ過ごしている。
だがやはり遥希も男、夢くらいはある。今はホストとして行く末は経営側に身を置く旨、生涯を水と芸を売る現世界で骨を埋めようと決めているのだ。
ならば確実に噂の的となるだろう高峻の店を引き継ぐより、地道に金を稼ぎいづれ小さくとも自分の店を構えるほうが世評を抑えることができる。
けれど恩義ある高峻の提案を蹴るのは憚れる。未だ答えの見つからない遥希だった。
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