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第三章 指切
第九話
しおりを挟むその後も途切れることなく遥希を目当てにやってくる客を笑顔でもてなし、最後の客がチェックを終えると看板のライトは消されつつがなくその日の営業が終了した。
黒服たちが固唾家の作業を開始しキャストたちは更衣室で帰り支度をする頃、遥希は事務室で売り上げの確認をする代表の許に顔をだす。
これは遥希がフリューゲルで働き始めた頃からの日課となっており、そうするよう遥希に指示したのは他ならぬ代表だった。
当初は同情から接していた代表もすぐに遥希の内面に好感を覚え、今では一キャストとしてだけではなく大切な存在と心に位置づけている。
それは大切な従業員として、また可愛い息子や弟のように、そして───
「んっ……ふっ……ぅ、っ」
事務室にリップ音が静かに響く。
玉座のような椅子に腰をかける、三つ揃えのスーツに身を包む甘く精悍な顔立ちの男。フリューゲルの代表である凪 高峻が、事務デスクに腰かける遥希の肩を引きよせ口唇を食む。
何度も角度を変え舌を絡め合うと、美しい顔をした男たちの身体はゆっくりと離れていく。
「──甘いな」
「ん……、さっき最後の客にチョコを食べさせられたからかな」
「はは。そうじゃないよ、俺にとって遥希のキスは最高のスイーツって意味さ」
「……キザ」
言葉の端々に自信が溢れる高峻の科白に、遥希は呆れ口調でそう返す。けれど「ホストだからね」と微笑み意趣返しをする彼の神経の太さに敵うはずもなく、遥希は「ホストにホストの口説きテクつかってどうするのさ」とまた呆れるのだった。
今年で二十三歳になる遥希は、代表である高峻に拾われホストとなって四年。十九歳で夜の世界に身を置くと、程なくして高峻との関係が始まった。
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