泣いて謝っても許してあげない

あおい 千隼

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第二章 耽溺

第七十六話

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 テーブルにずらりと並んだ、屋台メシの数々に、思わずため息が漏れました。

 普通の女子なら、全部食べ切れない量です。普通じゃないわたしは、食べちゃいますけれど。

「うわ、なんだかすごいことになっちゃいましたよ」

 まずは、たこ焼きをいただきましょう。一番安い、四個入りです。

「ホワ熱熱熱ャ……」

 口の中がヤケドしないように、呼吸しながら食べましょう。

「はふはふっ。ああ、罪深うまい」

 これは、いいたこ焼きです。タコの弾力が申し分ありません。生地もカリッとしつつ、しっとりした味わいで。中身はクラーケンですが、味はまごうことなきたこ焼きですね。すばらしい転生ぶりです、クラーケンさん。

 シスター・ローラに感想を言おうとしましたが、お忙しそうなので遠慮しておきます。

「お次はジャンボソーセージを。ほう、これも実にいいですね」

 噛んだ瞬間、肉汁が溢れてきました。いいお肉です。もっとパサついているものだとばかり。辛子がきいて、最高のソーセージです。

 じゃがバターもいいですね。ちょうどいい感じに、バターが溶けています。

 タレまみれの焼鳥、実にいいですね。皮は塩でいただきましたが、サッパリして口の中をいい感じにリセットしてくれます。ただ味は、塩の方が濃いんですよね。

 焼きとうもろこしに、豪快にかぶりつきます。おしょう油たっぷりの味わいが、口の中に広がってきました。噛み締めながら、うなずいちゃってます。じゃがバターとは違った、穀物の可能性を感じますね。

 不足がちなお野菜は、キャベツ焼きとソース焼きそばで補いました。どちらもハーフサイズです。野菜というよりは、炭水化物祭りですが。

 これらをラムネで流し込む、と。空になったガラスボトルの中で、ビー玉が風鈴のような音を奏でました。

 すばらしい。胃袋がお祭り騒ぎですね。これはもう、追加してしまいましょう。

「おでんをください。それと炭酸を」

 こうなったら、とことんいきましょう。大根や卵をいただきます。

「ほふほふ、これも罪深うまい」

 これでお酒が飲めたら、完全にただの酔っ払いに見えるんでしょうね。 

「どうだい、クリス。堪能したかい?」

 ひと仕事終えたシスター・ローラが、様子を見に来ました。わたしのラムネ瓶が空になったのを知っていたのか、ジョッキ入りの炭酸を持ってきてくれています。

「ありがとうございます。でも、お酒じゃないですよね?」
「酒はこっち」

 匂いをかぐと、たしかにローラ先生の方はアルコールが入っているようでした。

 乾杯の音頭もなく、ローラ先生はジョッキをわたしの分にカチンと鳴らしてエールを煽ります。

「今日は、ごちそうさまでした
「いいって。いい食いっぷりだね?」

 空の容器だけになったテーブルを見て、わたしは苦笑いします。

 遠くで光が上がって、大輪の花を咲かせました。

「あ、花火ですね」

 ベストポジションとは言い難いですが、花火は屋台のイートインで眺めるのが、わたしにはちょうどいいのかも知れません。

 複数のカップルが、花火を見上げながら寄り添い合っています。

「あんなマネは、できそうにありません」

 わたしのような人間を、人は『色気より食い気』というのでしょう。

「だろうね。アンタは一生、結婚できないだろうね」
「やはり、そう思いますか?」

 ローラ先生の言葉を、わたしは否定しません。

「人当たりも良くて、家事もできる。子供の面倒見もいい。けど、性欲がまるでないもん。全部、食欲に振り切れてる。目の前にイイ男が現れても、アンタはディナーのメニュー表ばかり見ているんだろうさ」

 言いながら、ローラ先生はほほえみます。

「それでは、婚期を逃しますね」

 つられて、わたしも笑います。

「でも、アンタはそれでいいのさ。一人でも、屋台で花火を見て幸せを感じられるなら」
「わたしも、そういう生き方がいいです」

 自分の将来について考えていると、またお腹が空いてきました。

 次は、どの屋台を回りましょうかねぇ? 
 
 
(屋台編 完)
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