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第二章 耽溺
第五十九話
しおりを挟む「そうですよ、あそこで転がってるのは僕の元ストーカー、僕の元彼氏です。けど今はただの肉の塊、もう動きも喋りもしない単なる人だったモノ。
こうして見てみると滑稽ですよね。あんなにも好きだったのに、今はもう冷たくなっていても何も感じない。それどころか汚らわしいだけで、胸に湧くのは嫌悪感だけです。
ふふ、木偶の坊にはお誂え向きな末路じゃないですか。目いっぱい僕の心を切り裂いてくれたんですよ彼、だったら今度は僕が彼を切り裂いてあげてもいいじゃないですか」
それから音稀は「ねえ一将さん。もっと驚くことを教えてあげましょうか」と訊く。すでにビビリまくって口が金縛り状態の俺は、情けねえがコクコクとうなずくしかできねえ。
音稀は言う、「彼すごかったんですよ、切り裂かれたときの血飛沫。気をつけていたつもりでしたが、やっぱり返り血を浴びていたんですね」と。
それから音稀は転がる死体の許に歩いていくと、ストーカー野郎を足蹴にしながらふり返り「でもどうして僕のシャツ、まえではなく後ろに血痕があったと思います?」と俺に問いかける。
こんなときに謎かけかよ、ンな暢気に推理ごっこしてる場合じゃねえって。しかも微笑浮かべて死体を蹴るとかさ、もう色々とゲシュタルトもアイデンティティも崩壊しちゃうわけよ。
だいたいホラー真っ只中って気分なのに、うまく頭なんて働くわきゃねえだろ。
ん……でも待てよ? 後ろに返り血、しかも裾のほうに浴びてただと。俺のなかで散らばったパズルのピースが埋まり、ひとつの答えに完成されていく。
ごくりと唾を呑み音稀に訊く。
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