泣いて謝っても許してあげない

あおい 千隼

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第二章 耽溺

第十八話

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 離婚してしばらくは実家で世話になっていたが、会社にほど近い場所に手頃なワンルームマンションを見つけ入居した。

 独身者用の社員寮も検討してみたが、寮則に女を連れ込めねえとあり断念。バツイチとはいえまだ二十代の健康的な男がよ、男やもめな清らか寮生活とかどんな罰ゲームだ?

 とはいえまだ彼女ができたわけでもなく、めぼしい女子社員もいねえしで女っ毛のねえ生活を送っている。嫁と別れてからキャバ通いもやめてしまった俺って……枯れてんのか。

 今は休日に子供と逢うのが嬉しくてしかたがねえ。それだけが楽しみで仕事を頑張ってるっても過言じゃねえんだ。嫁と暮らしてたときより子供を愛しく思えるようになった──そう考えるとむしろ離婚してよかったのかもしんねえ。

 身の回りの世話をしてくれるやつがいなくて、すべて自分でしなきゃなんねえのは面倒。けどそれも少しずつ慣れてきたこの頃だ───

 いつものように社畜から解放された帰り道でのこと。

「一将さん」

 俺の名を呼ぶアルト声。この声を俺は知っている。ふり返り目が合うと笑顔になっちまう。

「音稀くん──どうしたの、こんなところで」

「あなたを待っていました」

 俺を待っていたというなりそばに近づき、スーツの袖を指につまみ上目づかいに俺を見る。これは百パーセント狙ってるだろ、女がよく使う手だ。

 道ゆく女や野郎どもがふり返って見るほどの容姿。音稀はマジ美人イケメンだ。シンプルだが要所要所に洒落を利かせたスタイルは、雑誌に載っているモデルみてえでマジ眩しい。

 やることはあざといが、絆されるに威力は充分だった。

「そっか、嬉しいな。音稀くん飯食った?」

「いえ、まだです」

「よし、じゃあいこう──」

 袖をつまむ手を握りしめると俺たちは夜の街に足を向けた。

 この時はただ暇つぶし程度の感覚だったとは思うが、どんどん深みにはまり音稀にのめり込んでくことになる。野郎相手に本気になっちまうとかびっくりだが、これが俺の人生を詰む結果となってしまう。
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