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第一章 変貌
第六十六話
しおりを挟む空が白む頃に目を覚ました西園寺。夢現と少しのあいだ放心していたが、視線を感じソファのほうへ目を向け完全に覚醒した。
「よう」
「──櫂」
西園寺の目に映るのは、冷ややかな笑みを浮かべながら自身を見下ろす周防だった。
酒の勢いだったとはいえ、昨夜のおこないは紛れもなく暴行だ。かすみがかった記憶にもかっきりと残る周防への強姦。痛みに歪む表情さえ悦びを感じ、恋人を貪る欲求がよみがえる。
もとは冷静沈着な西園寺。妻と同時に愛した恋人の思いもよらない行動に打ちのめされ、酒に逃げて理性を手放してしまった。妻から信頼を失い、恋人も自身から離れようとしている。
すべてを失ってしまう恐怖は徐々に怒りへと変わっていき、幸せを壊されてしまったと周防に憎しみをぶつけてしまったのだ。
何もかも愚かな自分が招いたこと、自業自得とはいえ助けと慈悲を乞う相手は周防しかいない。急ぎ上体を起こすと居住まいを正し、周防の足許に平伏してひたすら謝る。
「すまない。騙していて悪かった。ただどうしても妻を切ることはできなかった。あれは弱い女だ、俺がいないと生きてはいけない。
どうか同じ男として考えてみて欲しい、妻を路頭に迷わせることはしたくない。償いはする。櫂が納得できるだけの金も用意する。この通りだ、妻に冗談だったと取り成してくれ」
もはや戯れ言にしか聞こえない懺悔を静聴する周防。かつて愛した男の背中はこんなにも小さかったのか。夢から覚めたようにちっぽけな男を静観した。
二度も心を殺された周防にとって、足許でうずくまる物はごみ屑としか認識されず、ひとかけらの憐みすら感じることはない。
周防との関係は手放しても、妻との生活だけは手放したくないらしい。ならばどうして離婚するなど実現もしない嘘をつくのかと呆れるが、もっとも今となってはどうでもいいことだ。
惨めにも慈悲を求める屑に相応しい言葉をかけてやる。
「往生際が悪いんじゃねえの。だいたい身から出た錆だろ、俺にすがってんじゃねえよ。つかてめえの妻が屋敷で待ってんぜ、はやく帰ってやれよ。俺もつき合ってやっから」
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