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第一章 変貌
第五十二話
しおりを挟むつづけて「こんな可愛い奥さんとのラブラブ邪魔されて藤隆もムカついてんじゃね。さっきから機嫌悪そうだし」と飛び火のように意趣返しも忘れない。
予想だにしない周防の科白に目を見開く。びくりと肩を震わす情けない男が「い、いや、その」と口ごもる。
それもそのはず。妻には急に邪魔をした謝罪にしか聞こえないだろうが、西園寺にとっては皮肉たっぷり愛人の恨み言なのだから。
周防の真意など分かるはずもない妻が会話に加わる。
「いいえ、今日はもうお買い物に出かけたので。ふふふ、久しぶりにデートに誘ってくれたんですよ。ずっと行ってみたいなと言っていたところがあって、そうしたら昨日ね”明日デートしよう”と連絡をくれたの。
ほら、藤隆さんてお仕事忙しいでしょう? いつも帰りが遅いし、最近はオフィスで寝泊まりしていたみたいで。身体壊すよと言っても聞かなくて、ほんとうに困ったひと。
お昼は私がお弁当をつくって届けてたけど、夜は外食ばかり───そうだ周防さんも藤隆さんと同じ部署で働いているのかしら。部下のかた? ご結婚は──」
「水緒。そんな根掘り葉掘り訊いては失礼だろう」
マシンガントークとはこのことか。
西園寺の妻は水緒というらしい。彼女がお喋りなのはよく分かった。周防のまえではくぐもるしかなかった西園寺、けれど妻に対しては冷静に諭している。
七つ年下の女房ともなれば妹のような感覚なのか。ともあれ妻には強く出られるタイプの男であることは理解した。西園寺は無視して彼女の質問にひとつずつ返す。
「水緒さんですか、素敵な名前ですね。じゃあ僕も水緒さんて呼んじゃお。ああそれから、僕は藤隆の部下じゃないっすよ。どちらかというとお得意様? って感じかな、色んな意味で。
服屋で働いてんす、僕。藤隆は上得意様で、公私ともに仲良くさせてもらってます。それから僕まだ結婚してなくて。いい相手がいないんすよね、つか悪い相手に騙されてばかりです」
最後に西園寺の目を見て「なんだ。藤隆と奥さんて仲いいじゃん。聞いていた話と違うけど?」と暗雲の種を蒔いておいた。
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