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現世と幽世
第93話「夜明け」
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潜ってきた光の輪がふわっと消えた。辺りが暗闇に包まれる。いや、暗闇ではない。大気はほんのり紫がかっていた。夜明けが近い。
心乃香はクロのことが気になったが、斗哉の体も心配だった。日が昇ればそこで終わり。斗哉の魂を体に戻さなければ、ここまで必死に戻ってきた意味がなくなる。
「八神、あんたの体どこなのっ」
『お堂の扉前の縁に横たわってるはず』
斗哉の魂は軌道を走らせ、心乃香を導いた。
***
心乃香は息を切らせ、お堂の縁に横たわるぴくりとも動かない斗哉の顔を覗き込んだ。息をしていない。慌てて斗哉の腕を取り、脈を確認した。
「……脈もない。体も冷たくなってる、八神、早く戻って!」
斗哉の魂は言われるままに体に入ろうとするが、体をすり抜けてしまう。
『元に戻れない、どうすればっ』
どうしていいか分からず、二人は途方に暮れた。周りが徐々に薄っすら明るくなっていく。間に合わなかった? 焦るばかりでどうにもならない。心乃香は自分の心拍数が上がっていくのを感じた。折角戻ってこられたのに、斗哉が死んでしまったら何の意味もない。
(絶対いやっ、絶対!)
結局自分には何も出来ないのかと、心乃香は涙が溢れそうになった。その時、何度も体に戻ろうと試みていた斗哉の魂が、泣きそうになっている心乃香の頬に近づいてきた。
『如月、もういいよ。お前が戻ってきてくれただけでも。ありがとう、オレのために泣いてくれて』
「泣いてないっ。イヤよ! ふざけないで! あんたが死んじゃったら何の意味もないっ」
心乃香の心からの叫びに、斗哉は面食らった。相手が気がついたら大切な存在になっていたのは、自分だけだと思ってだからだ。今は心はないのに、魂だけの存在なのに、胸が熱くなって満たされる心待ちだ。嬉しい……凄く幸せだ。
今人生が終わったら、本当に幸せかもしれない。斗哉は表情すらないのに、自分が微笑んでいるのを感じた。ふわっとした感情が魂内を駆け巡る。今なら何でも出来そうだと、魂だけになった斗哉は感じていた。
『最後に、一つだけお願いあるんだけど』
「最後とか言わないで!」
顔をくしゃくしゃにし、心乃香は斗哉の魂にもの凄い剣幕で怒鳴りつけた。斗哉はおおっと若干尻込みしたが、その剣幕すら愛おしく感じるのだから、もうどうしようもない。
『……キスして欲しい』
つづく
心乃香はクロのことが気になったが、斗哉の体も心配だった。日が昇ればそこで終わり。斗哉の魂を体に戻さなければ、ここまで必死に戻ってきた意味がなくなる。
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斗哉の魂は軌道を走らせ、心乃香を導いた。
***
心乃香は息を切らせ、お堂の縁に横たわるぴくりとも動かない斗哉の顔を覗き込んだ。息をしていない。慌てて斗哉の腕を取り、脈を確認した。
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今人生が終わったら、本当に幸せかもしれない。斗哉は表情すらないのに、自分が微笑んでいるのを感じた。ふわっとした感情が魂内を駆け巡る。今なら何でも出来そうだと、魂だけになった斗哉は感じていた。
『最後に、一つだけお願いあるんだけど』
「最後とか言わないで!」
顔をくしゃくしゃにし、心乃香は斗哉の魂にもの凄い剣幕で怒鳴りつけた。斗哉はおおっと若干尻込みしたが、その剣幕すら愛おしく感じるのだから、もうどうしようもない。
『……キスして欲しい』
つづく
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