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現世と幽世
第91話「真の闇」
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その空間は真の闇が広がっていた。真の黒だ。心乃香は光のまったく通らないその暗闇の中を進むのを躊躇った。足がすくむ。意味の分からない恐怖が心を包んでいくのだ。呼吸が上がっていくのが分かる。
――怖い。
今まで感じたことない恐怖だった。黒い温かな毛玉が心乃香の肩までよじ登ってきて、頬に擦り寄ってきた。
「怖い? 大丈夫だよ。絶対一緖に帰ろう」
続けて、さらに煌々と明るく蒼い炎が輝いて、心乃香の視界を照らした。「任せて」と言わんばかりに。この二人がいなければ、とてもこんな場所を通れなかったかもしれない。悔しいけどもと、心乃香は安堵で不思議と涙が溢れそうになった。
***
猫の斗哉がぎゅと心乃香の首元に引っ付いてくる。でもその体は温かくて、柔らかくて、心乃香は悪い気がしなかった。マニマルセラピーというものがあるくらいだ。というか今は自分も白熊だ。
現世に戻って元の姿に戻れなくても悪くないかもしれないと、心乃香は首元にしがみついている猫の斗哉の体をそっと撫でた。
「うわっ、何」
「あ、ごめん。ついつい気持ちよくて」
心乃香は慌てて手を離そうとしたが、斗哉は、心乃香の毛むくじゃらの腕にしがみつく。
「如月の手も大きくて気持ちいいよ。それにちょっとあの時、羨ましかったんだよな」
「何が」
斗哉は天を仰いで思考し出したが、耳をピンと立てて頬を赤らめると、急にしおしおとし出して「何でもない」と小声で呟いた。
二人とも現世とは変わり果てた姿だったが、完全に元に戻った気持ちになっていた。このままきっと戻れる。そんな風に感じていた。
目の前の蒼い炎は、黙って二人の前を明るく煌々と照らしていた。最後の残火のように。
つづく
――怖い。
今まで感じたことない恐怖だった。黒い温かな毛玉が心乃香の肩までよじ登ってきて、頬に擦り寄ってきた。
「怖い? 大丈夫だよ。絶対一緖に帰ろう」
続けて、さらに煌々と明るく蒼い炎が輝いて、心乃香の視界を照らした。「任せて」と言わんばかりに。この二人がいなければ、とてもこんな場所を通れなかったかもしれない。悔しいけどもと、心乃香は安堵で不思議と涙が溢れそうになった。
***
猫の斗哉がぎゅと心乃香の首元に引っ付いてくる。でもその体は温かくて、柔らかくて、心乃香は悪い気がしなかった。マニマルセラピーというものがあるくらいだ。というか今は自分も白熊だ。
現世に戻って元の姿に戻れなくても悪くないかもしれないと、心乃香は首元にしがみついている猫の斗哉の体をそっと撫でた。
「うわっ、何」
「あ、ごめん。ついつい気持ちよくて」
心乃香は慌てて手を離そうとしたが、斗哉は、心乃香の毛むくじゃらの腕にしがみつく。
「如月の手も大きくて気持ちいいよ。それにちょっとあの時、羨ましかったんだよな」
「何が」
斗哉は天を仰いで思考し出したが、耳をピンと立てて頬を赤らめると、急にしおしおとし出して「何でもない」と小声で呟いた。
二人とも現世とは変わり果てた姿だったが、完全に元に戻った気持ちになっていた。このままきっと戻れる。そんな風に感じていた。
目の前の蒼い炎は、黙って二人の前を明るく煌々と照らしていた。最後の残火のように。
つづく
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