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現世と幽世
第86話「剥き出しの魂」
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途端、斗哉の魂はクロの体から弾き出された。それと替わるようにクロの炎がクロの本体へ掃除機に吸い込まれるようにスポッと吸引される。
突然本体に戻ったクロは、呼吸を忘れたようにしばらく唖然としていたが、魂の剥き身になった斗哉に、恐る恐る声を投げかけた。
「斗哉、お前なんてこと……もう、戻れないぞ」
斗哉の魂は驚くほど冷静に頷いた。
『うん。オレはここに残るよ。クロ、今までありがとう』
本当に勝手なやつ。初めて会った時から八神斗哉という人間はそうだったと、クロの中に怒りに近いさまざまな感情が沸々と湧き上がってきた。
傍若無人、身勝手、遠慮がなく、他者の迷惑を考えていない。何でも自分の思い通りになると思っている。信じている、自分が世界から愛されていることを、微塵も疑っていない。
大変迷惑な存在だ。
でも本当にそうだろうか。
自己受容し、自分の欲望に大変素直だ。人が本当に幸せになれる方法を、八神斗哉は無意識で分かっている。
自分のしたいことを我慢しない。他者から嫌われることを恐れない。実際どれだけ如月心乃香に煙たがられても、こんなところまでやってきた。彼女にとってはきっと迷惑だろう。でも他者の考えを変えさせるほどの行動力。それがある人間、それが人間の勝者なのかもしれない。
「勝手にボクが帰るなんて決めつけるな。お前の言いなりになんかならない。ボクは心乃香に会いに来たんだ」
そうクロは明言すると、山のように大きくなった心乃香らしき白熊を見上げた。元動物の本能か、その大きさにクロの体は強張った。
「斗哉、剥き出しの魂は脆弱だ。ここにいても、しばらくすれば存在が気薄になり、やがて消えていくよ」
『それでもいい。最後まで、如月のそばにいるよ』
半分になってしまった斗哉の魂は、透けるようだった。それでも確固たる意志が、彼の存在をこの世界に留まらせているようだった。
次には山のように大きい白熊が、透けかけている魂だけになった斗哉を覗き込んだ。鼻でクンクンと魂の匂いを嗅ぐ。魂にも匂いがあるのだろうかと、今にも食われそうなこの距離に、斗哉とクロは身を縮こませた。
白熊の目つきが鋭くなった。目に映るものを射殺すような眼差しだった。この冷たい、人を遠ざけようとする眼差しには、見覚えがあると斗哉は思い出した。
「……ヤガミ?」
ポツリと白熊が低い声で呟いた。
つづく
突然本体に戻ったクロは、呼吸を忘れたようにしばらく唖然としていたが、魂の剥き身になった斗哉に、恐る恐る声を投げかけた。
「斗哉、お前なんてこと……もう、戻れないぞ」
斗哉の魂は驚くほど冷静に頷いた。
『うん。オレはここに残るよ。クロ、今までありがとう』
本当に勝手なやつ。初めて会った時から八神斗哉という人間はそうだったと、クロの中に怒りに近いさまざまな感情が沸々と湧き上がってきた。
傍若無人、身勝手、遠慮がなく、他者の迷惑を考えていない。何でも自分の思い通りになると思っている。信じている、自分が世界から愛されていることを、微塵も疑っていない。
大変迷惑な存在だ。
でも本当にそうだろうか。
自己受容し、自分の欲望に大変素直だ。人が本当に幸せになれる方法を、八神斗哉は無意識で分かっている。
自分のしたいことを我慢しない。他者から嫌われることを恐れない。実際どれだけ如月心乃香に煙たがられても、こんなところまでやってきた。彼女にとってはきっと迷惑だろう。でも他者の考えを変えさせるほどの行動力。それがある人間、それが人間の勝者なのかもしれない。
「勝手にボクが帰るなんて決めつけるな。お前の言いなりになんかならない。ボクは心乃香に会いに来たんだ」
そうクロは明言すると、山のように大きくなった心乃香らしき白熊を見上げた。元動物の本能か、その大きさにクロの体は強張った。
「斗哉、剥き出しの魂は脆弱だ。ここにいても、しばらくすれば存在が気薄になり、やがて消えていくよ」
『それでもいい。最後まで、如月のそばにいるよ』
半分になってしまった斗哉の魂は、透けるようだった。それでも確固たる意志が、彼の存在をこの世界に留まらせているようだった。
次には山のように大きい白熊が、透けかけている魂だけになった斗哉を覗き込んだ。鼻でクンクンと魂の匂いを嗅ぐ。魂にも匂いがあるのだろうかと、今にも食われそうなこの距離に、斗哉とクロは身を縮こませた。
白熊の目つきが鋭くなった。目に映るものを射殺すような眼差しだった。この冷たい、人を遠ざけようとする眼差しには、見覚えがあると斗哉は思い出した。
「……ヤガミ?」
ポツリと白熊が低い声で呟いた。
つづく
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