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第75話「三周目〜縁結びの御守り〜」
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――四カ月後
「少し肌寒くなってきましたね」
斗哉は急に後ろから声を掛けられて、背中をビクッと硬直させた。
「夏からずーと、いらしてる。前に熱中症になりかかって、フラフラしてた学生さんでしょ」
斗哉は以前、「五十嵐陸」が消えた時に学校を早退し、真夏の神社を探索をしていて、倒れかかってこの神社の神主に、介抱してもらったことを思い出した。
「あっ、あの時は、ありがとうございました」
ハハハと神主は朗らかに声を上げて笑った。
「前の時も熱心に何か探しておったみたいだが、探し物は見つかったのかね」
「いえ、それはもう……見つからない、かな」
神主は斗哉のその様子を見て深くは探らず、斗哉が手に握っていたあるものに気が付いた。
「それ、うちの神社の御守りですな」
突然言い当てられて、斗哉は慌てて「そうです」と返事をした。
「その桜貝の御守り、限定販売だったんですよ。手に入れたなんて運がいい」
「はあ。そうなんですか」
「もしかしてここに毎日来てるのは、その御守りの片方を持ってる相手のことでですかな」
「え!」っと斗哉はその問いに息を呑んだ。ハハハと神主は再び笑った。
「毎日ここに来る貴方を見ていると、『百日詣』を思い出しますよ」
「百日詣?」
「『御百度参り』と言った方が馴染みが良いですかな。神様に願いを聞いてもらうために、神社で百回お参りをする風習ですな」
「でもお参りするだけなんて。祈るだけなんて、何だか他力本願ですね。オレは出来ることがあるなら何だってしてやりたいのに。あ、いえ、すいません、ここ神社なのに」
「ハハハッ。いいですよ、そんなこと。でも、神に縋りたいくらい、貴方にはどうしようもできない願いがありそうだ」
神主は斗哉を静かに見つめていた。その瞳の前では、偽ることなどできないと斗哉は息をのんだ。
「オレ、もう一度どうしても会いたい人がいるんですけど、だけどもう会えないんです。でも、会いたい……それでも願ってたら、会えるんですかね」
斗哉はそう言葉にして、唇を噛み締めた。
「もしかして、その御守りを片方渡した相手ですかな」
「えっ、あ、そうです。なんで分かったんですか」
神主さんはニヤッと、得意そうに微笑んだら。
「これでもうちは『縁結び』の神社です。その片方を持っている相手も『貴方に会いたい』と思っているなら、いつかきっと会えます」
「いや、あっちがどう思ってるかは。大嫌いって言われたし」
斗哉は伏せ目がちに項垂れた。その様子を見て、神主は自分の唇に指を当てがった。
「ふむ、大嫌いですか。それはとても強い『感情』ですな。そんなに嫌われていると」
「それは、その、オレが悪いんです。嫌われるようなことしちゃったんで」
「すべての『情』は『愛情』の一部なんです」
「え?」
斗哉には、その言葉に聞き覚えがあった。神主は静かに微笑んだ。
「哲学者だった母が言っていた言葉です。『0』からは何も生まれませんが、『情』があるなら、まだ脈ありですなっ」
「……そう、ですか?」
「貴方がその相手を想っている限り、希望はありますよ。諦めなければ、その御守りが必ず貴方たちの縁をお助けします。一度結ばれた縁というのは、そうは簡単に切れないのです」
斗哉は涙がこみ上げそうになった。自分の単純さに呆れつつも、その神主の言葉をどうしても信じたくなった。
(ヤバイ、オレ宗教とかに簡単に引っかかるタイプかも)
それにしてもと、斗哉はあることを思い出した。すべての『情』は『愛情の一部』という言葉だ。
その時、神社の敷地内にガタイの良い男たちが、資材を運搬しながらぞろぞろと入ってきた。隣にいた神主は彼らに呼ばれていった。何やら話をしている。境内が賑やかになってきて、斗哉は考えがまとまらなくなった。
***
斗哉は大きな銀杏の木に持たれながら、神主とガタイの良い男たちを眺めていた。大きな掛け声を出しながら、せわしなく動く男たち。資材が沢山運ばれてくる。どうやら屋台の準備らしい。またお祭りでもあるんだろうかと斗哉はぼんやり眺めていた。祭りの準備というものは、当日とは違った賑やかさがあるなと、他人事のように冷めた眼差しで斗哉は見つめていた。
その時、あの夏祭りの賑やかさが思い出され、斗哉はあっと、あることに気が付いた。
(あいつが言ってた言葉だっ)
社務所の方へ戻っていく神主を、斗哉は慌てて追いかけた。
つづく
「少し肌寒くなってきましたね」
斗哉は急に後ろから声を掛けられて、背中をビクッと硬直させた。
「夏からずーと、いらしてる。前に熱中症になりかかって、フラフラしてた学生さんでしょ」
斗哉は以前、「五十嵐陸」が消えた時に学校を早退し、真夏の神社を探索をしていて、倒れかかってこの神社の神主に、介抱してもらったことを思い出した。
「あっ、あの時は、ありがとうございました」
ハハハと神主は朗らかに声を上げて笑った。
「前の時も熱心に何か探しておったみたいだが、探し物は見つかったのかね」
「いえ、それはもう……見つからない、かな」
神主は斗哉のその様子を見て深くは探らず、斗哉が手に握っていたあるものに気が付いた。
「それ、うちの神社の御守りですな」
突然言い当てられて、斗哉は慌てて「そうです」と返事をした。
「その桜貝の御守り、限定販売だったんですよ。手に入れたなんて運がいい」
「はあ。そうなんですか」
「もしかしてここに毎日来てるのは、その御守りの片方を持ってる相手のことでですかな」
「え!」っと斗哉はその問いに息を呑んだ。ハハハと神主は再び笑った。
「毎日ここに来る貴方を見ていると、『百日詣』を思い出しますよ」
「百日詣?」
「『御百度参り』と言った方が馴染みが良いですかな。神様に願いを聞いてもらうために、神社で百回お参りをする風習ですな」
「でもお参りするだけなんて。祈るだけなんて、何だか他力本願ですね。オレは出来ることがあるなら何だってしてやりたいのに。あ、いえ、すいません、ここ神社なのに」
「ハハハッ。いいですよ、そんなこと。でも、神に縋りたいくらい、貴方にはどうしようもできない願いがありそうだ」
神主は斗哉を静かに見つめていた。その瞳の前では、偽ることなどできないと斗哉は息をのんだ。
「オレ、もう一度どうしても会いたい人がいるんですけど、だけどもう会えないんです。でも、会いたい……それでも願ってたら、会えるんですかね」
斗哉はそう言葉にして、唇を噛み締めた。
「もしかして、その御守りを片方渡した相手ですかな」
「えっ、あ、そうです。なんで分かったんですか」
神主さんはニヤッと、得意そうに微笑んだら。
「これでもうちは『縁結び』の神社です。その片方を持っている相手も『貴方に会いたい』と思っているなら、いつかきっと会えます」
「いや、あっちがどう思ってるかは。大嫌いって言われたし」
斗哉は伏せ目がちに項垂れた。その様子を見て、神主は自分の唇に指を当てがった。
「ふむ、大嫌いですか。それはとても強い『感情』ですな。そんなに嫌われていると」
「それは、その、オレが悪いんです。嫌われるようなことしちゃったんで」
「すべての『情』は『愛情』の一部なんです」
「え?」
斗哉には、その言葉に聞き覚えがあった。神主は静かに微笑んだ。
「哲学者だった母が言っていた言葉です。『0』からは何も生まれませんが、『情』があるなら、まだ脈ありですなっ」
「……そう、ですか?」
「貴方がその相手を想っている限り、希望はありますよ。諦めなければ、その御守りが必ず貴方たちの縁をお助けします。一度結ばれた縁というのは、そうは簡単に切れないのです」
斗哉は涙がこみ上げそうになった。自分の単純さに呆れつつも、その神主の言葉をどうしても信じたくなった。
(ヤバイ、オレ宗教とかに簡単に引っかかるタイプかも)
それにしてもと、斗哉はあることを思い出した。すべての『情』は『愛情の一部』という言葉だ。
その時、神社の敷地内にガタイの良い男たちが、資材を運搬しながらぞろぞろと入ってきた。隣にいた神主は彼らに呼ばれていった。何やら話をしている。境内が賑やかになってきて、斗哉は考えがまとまらなくなった。
***
斗哉は大きな銀杏の木に持たれながら、神主とガタイの良い男たちを眺めていた。大きな掛け声を出しながら、せわしなく動く男たち。資材が沢山運ばれてくる。どうやら屋台の準備らしい。またお祭りでもあるんだろうかと斗哉はぼんやり眺めていた。祭りの準備というものは、当日とは違った賑やかさがあるなと、他人事のように冷めた眼差しで斗哉は見つめていた。
その時、あの夏祭りの賑やかさが思い出され、斗哉はあっと、あることに気が付いた。
(あいつが言ってた言葉だっ)
社務所の方へ戻っていく神主を、斗哉は慌てて追いかけた。
つづく
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