上 下
75 / 95
3rd round after

第75話「三周目〜縁結びの御守り〜」

しおりを挟む
 ――四カ月後

「少し肌寒くなってきましたね」

 斗哉は急に後ろから声を掛けられて、背中をビクッと硬直させた。

「夏からずーと、いらしてる。前に熱中症になりかかって、フラフラしてた学生さんでしょ」

 斗哉は以前、「五十嵐陸」が消えた時に学校を早退し、真夏の神社を探索をしていて、倒れかかってこの神社の神主に、介抱してもらったことを思い出した。

「あっ、あの時は、ありがとうございました」

 ハハハと神主は朗らかに声を上げて笑った。

「前の時も熱心に何か探しておったみたいだが、探し物は見つかったのかね」
「いえ、それはもう……見つからない、かな」

 神主は斗哉のその様子を見て深くは探らず、斗哉が手に握っていたあるものに気が付いた。

「それ、うちの神社の御守りですな」

 突然言い当てられて、斗哉は慌てて「そうです」と返事をした。

「その桜貝の御守り、限定販売だったんですよ。手に入れたなんて運がいい」
「はあ。そうなんですか」
「もしかしてここに毎日来てるのは、その御守りの片方を持ってる相手のことでですかな」

「え!」っと斗哉はその問いに息を呑んだ。ハハハと神主は再び笑った。

「毎日ここに来る貴方を見ていると、『百日詣ひゃくにちもうで』を思い出しますよ」
「百日詣?」
「『御百度参りおひゃくどまいり』と言った方が馴染みが良いですかな。神様に願いを聞いてもらうために、神社で百回お参りをする風習ですな」
「でもお参りするだけなんて。祈るだけなんて、何だか他力本願ですね。オレは出来ることがあるなら何だってしてやりたいのに。あ、いえ、すいません、ここ神社なのに」
「ハハハッ。いいですよ、そんなこと。でも、神にすがりたいくらい、貴方にはどうしようもできない願いがありそうだ」

 神主は斗哉を静かに見つめていた。その瞳の前では、偽ることなどできないと斗哉は息をのんだ。

「オレ、もう一度どうしても会いたい人がいるんですけど、だけどもう会えないんです。でも、会いたい……それでも願ってたら、会えるんですかね」

 斗哉はそう言葉にして、唇を噛み締めた。

「もしかして、その御守りを片方渡した相手ですかな」
「えっ、あ、そうです。なんで分かったんですか」

 神主さんはニヤッと、得意そうに微笑んだら。

「これでもうちは『縁結び』の神社です。その片方を持っている相手も『貴方に会いたい』と思っているなら、いつかきっと会えます」
「いや、あっちがどう思ってるかは。大嫌いって言われたし」

 斗哉は伏せ目がちに項垂れた。その様子を見て、神主は自分の唇に指を当てがった。
 
「ふむ、大嫌いですか。それはとても強い『感情』ですな。そんなに嫌われていると」
「それは、その、オレが悪いんです。嫌われるようなことしちゃったんで」
「すべての『情』は『愛情』の一部なんです」
「え?」

 斗哉には、その言葉に聞き覚えがあった。神主は静かに微笑んだ。

「哲学者だった母が言っていた言葉です。『0』からは何も生まれませんが、『情』があるなら、まだ脈ありですなっ」
「……そう、ですか?」
「貴方がその相手を想っている限り、希望はありますよ。諦めなければ、その御守りが必ず貴方たちの縁をお助けします。一度結ばれた縁というのは、そうは簡単に切れないのです」

 斗哉は涙がこみ上げそうになった。自分の単純さに呆れつつも、その神主の言葉をどうしても信じたくなった。

(ヤバイ、オレ宗教とかに簡単に引っかかるタイプかも)

 それにしてもと、斗哉はあることを思い出した。すべての『情』は『愛情の一部』という言葉だ。

 その時、神社の敷地内にガタイの良い男たちが、資材を運搬しながらぞろぞろと入ってきた。隣にいた神主は彼らに呼ばれていった。何やら話をしている。境内が賑やかになってきて、斗哉は考えがまとまらなくなった。

***

 斗哉は大きな銀杏の木に持たれながら、神主とガタイの良い男たちを眺めていた。大きな掛け声を出しながら、せわしなく動く男たち。資材が沢山運ばれてくる。どうやら屋台の準備らしい。またお祭りでもあるんだろうかと斗哉はぼんやり眺めていた。祭りの準備というものは、当日とは違った賑やかさがあるなと、他人事のように冷めた眼差しで斗哉は見つめていた。

 その時、あの夏祭りの賑やかさが思い出され、斗哉はあっと、あることに気が付いた。

(あいつが言ってた言葉だっ)

 社務所の方へ戻っていく神主を、斗哉は慌てて追いかけた。

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を欲しがる男!

鬼龍院美沙子
恋愛
何十年も私を狙い私に相応しい男になりプロポーズしてきた男。お互い還暦を過ぎてるのに若い頃のように燃え上がった。

アルファポリス収益報告書 初心者の1ヶ月の収入 お小遣い稼ぎ(投稿インセンティブ)スコアの換金&アクセス数を増やす方法 表紙作成について

黒川蓮
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスさんで素人が投稿を始めて約2ヶ月。書いたらいくら稼げたか?24hポイントと獲得したスコアの換金方法について。アルファポリスを利用しようか迷っている方の参考になればと思い書いてみました。その後1ヶ月経過、実践してみてアクセスが増えたこと、やると増えそうなことの予想も書いています。ついでに、小説家になるためという話や表紙作成方法も書いてみましたm(__)m

抱かれたいの?

鬼龍院美沙子
恋愛
還暦過ぎた男と女。 それぞれの人生がある中弁護士 上田に友人山下を紹介してくれと依頼が三件くる。 分別がある女達が本気で最後の華を咲かせる。

妹を選ぶのですね。

ララ
恋愛
パーティー会場で叫ばれたのは婚約破棄。 しかも彼は、私の妹と婚約すると言い出して……

【完結】つり合いがとれない婚約なのはわかっています。だけど、私たち……幸せになりますから!

早稲 アカ
恋愛
男爵家のセレスティナ・ガーデンベルトと、オークファン侯爵令息のアルフォード様の婚約は家柄が釣り合いがとれていません。  セレスティナと彼の婚約は、事業の資金調達に頭を悩ませていたオークファン公爵の家へ、お金だけはあるガーテンベルと男爵家が、多額の援助をする代わりに一人娘のセレスティナを娶ってくれという男爵からの申し出で決まった婚約です。 ───ようするにお金。 はっきり言って、期待はしてなかった。 でも、予想外にアルフォードはセレスティナに優しくて……。 そこにアルフォードが親しくしている公爵令嬢エスタシア嬢と、彼女と婚約中の王太子殿下まで登場して、なんとセレスティナに一目ぼれ!? もともと、つり合いが取れない二人の恋物語はいかに!?

裏切りの代償:愛を手にした報い

 (笑)
恋愛
エリナは名家の一人娘で、豊かな財産と美貌を持ちながらも、真実の愛を見つけることに不安を抱いていました。ある日、幼馴染のアルトが再び彼女の前に現れ、彼女の人生は大きく変わり始めます。甘い言葉と懐かしい思い出に揺れるエリナは、彼との結婚を決意しますが、結婚生活が始まると次第に彼の態度に違和感を覚えるようになります。 信頼していた人に裏切られ、深く傷ついたエリナは、心優しい執事リチャードの支えを得て、真実を追い求める決意を固めます。エリナは、自らの手で困難を乗り越え、再び自分自身を取り戻す旅へと踏み出していくのです。彼女が見つけるのは、真実の愛と新しい未来――そして、これまでにない強さを手に入れた自分自身の姿でした。 この物語は、裏切りと試練を乗り越えて成長するヒロインの姿と、彼女が見つける真実の愛を描いた感動的なラブストーリーです。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

処理中です...