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3rd round after
第70話「三周目〜三つの呪い〜」
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斗哉と心乃香が地元に着いた時は、もう日が傾きかけていた。
二人は神社の周辺を探し回ったが、相変わらずあの古い鳥居に続く階段は見つからない。しかも心乃香が抱いている黒猫は、ぐったりしていて目覚めない。斗哉は遂に痺れを切らし黒猫の耳を引っ張った。
「おい、起きろっ。神社に着いたぞっ」
「ううん」と黒猫は眠そうに唸ると、前脚の爪を出して斗哉の手を引っ掻いた。
「痛って!」
「それは、こっちの台詞だわ。ったく、しょうがないなあ、もー」
そうぼやくと、心乃香に抱かれたまま黒猫は目をパチンパチンと瞬かせた。しばらくして、日が完全に落ちると、道路に面したあの鳥居に続く階段が現れた。
斗哉と心乃香はその不可思議な現象に、息を呑む。
そして黒猫は、心乃香の胸から飛び降りた。二人を振り返ると一瞥し、その階段をピョンピョンと登っていった。斗哉と心乃香は目を見合わせると黙って頷き合い、その黒猫の後を追いかけた。
***
古びた鳥居と奥のお堂。すべてはここから始まったのだ。
黒猫はお堂の扉前の縁の上にちょこんと横になっていた。ぐわっーとノビをすると、顔を前脚で洗い首を傾けて斗哉と心乃香を見つめてきた。
「単刀直入に言う。ボクにはこの『呪い』は解けない」
***
二人はその黒猫の答えに始め固まっていたが、斗哉は次第にワナワナと震え出し、黒猫に掴みかかった。掴みかかったったはずだった。斗哉の手がスッと虚空を描く。掴めない。姿は見えているのに掴めないのだ。
「そう何度もやられるか、バーカ」
「こいつっ」
心乃香はその二人のやり取りに、やれやれと被りを振った。
「ボクも何とかしようと、出雲で調べたんだ。でも方法なんてなかった。もうどうにもならないんだ。酒でも飲まなきゃやってられないだろっ」
と黒猫は逆ギレし、あーあと仰向けに横になる。
「世の中には、どーにもできないことがあるんだよ。お前たちだって分かってるんじゃないのか」
二人は何も言い返せずに、黙ってその場に立ち尽くしていた。
それじゃあ自分に縁のある人間たちがどんどん消えていくのを、黙って見てろって言うのかと斗哉は黒猫を睨んだ。
「ふざけるなっ」
「じゃあもう一度、時間を戻してみる?」
斗哉は黒猫の申し出に、ううっと後ずさる。
「戻したって無駄なんだ。返って更なる『代償』を支払わせられるだけ。大体さ、お前たちのせいじゃんっ」
黒猫は、二人を大きな瞳で睨み上げた。
「あの日、お前たちが『汚れ』なんて持ち込まなければ、『強い言霊』なんか吐かなければ、ボクは怨霊なんかにならなかったんだっ。この世界から成仏できたのにっ。いなくなれたのに!」
二人はそうだと気付かされた。白の言うことが正しいなら、この黒猫を怨霊化させてしまった原因の半分は自分たちにある。
斗哉はもうどうすればいいのか分からなくなり、その場に膝から崩れて落ちた。このまま何もできず、黙って人が消えていくのを、見ていることしかできない。
心乃香はそんな斗哉を黙って見つめていた。そして、黒猫に向き直った。
「……肩代わり、できない?」
心乃香は静かに呟いた。
つづく
二人は神社の周辺を探し回ったが、相変わらずあの古い鳥居に続く階段は見つからない。しかも心乃香が抱いている黒猫は、ぐったりしていて目覚めない。斗哉は遂に痺れを切らし黒猫の耳を引っ張った。
「おい、起きろっ。神社に着いたぞっ」
「ううん」と黒猫は眠そうに唸ると、前脚の爪を出して斗哉の手を引っ掻いた。
「痛って!」
「それは、こっちの台詞だわ。ったく、しょうがないなあ、もー」
そうぼやくと、心乃香に抱かれたまま黒猫は目をパチンパチンと瞬かせた。しばらくして、日が完全に落ちると、道路に面したあの鳥居に続く階段が現れた。
斗哉と心乃香はその不可思議な現象に、息を呑む。
そして黒猫は、心乃香の胸から飛び降りた。二人を振り返ると一瞥し、その階段をピョンピョンと登っていった。斗哉と心乃香は目を見合わせると黙って頷き合い、その黒猫の後を追いかけた。
***
古びた鳥居と奥のお堂。すべてはここから始まったのだ。
黒猫はお堂の扉前の縁の上にちょこんと横になっていた。ぐわっーとノビをすると、顔を前脚で洗い首を傾けて斗哉と心乃香を見つめてきた。
「単刀直入に言う。ボクにはこの『呪い』は解けない」
***
二人はその黒猫の答えに始め固まっていたが、斗哉は次第にワナワナと震え出し、黒猫に掴みかかった。掴みかかったったはずだった。斗哉の手がスッと虚空を描く。掴めない。姿は見えているのに掴めないのだ。
「そう何度もやられるか、バーカ」
「こいつっ」
心乃香はその二人のやり取りに、やれやれと被りを振った。
「ボクも何とかしようと、出雲で調べたんだ。でも方法なんてなかった。もうどうにもならないんだ。酒でも飲まなきゃやってられないだろっ」
と黒猫は逆ギレし、あーあと仰向けに横になる。
「世の中には、どーにもできないことがあるんだよ。お前たちだって分かってるんじゃないのか」
二人は何も言い返せずに、黙ってその場に立ち尽くしていた。
それじゃあ自分に縁のある人間たちがどんどん消えていくのを、黙って見てろって言うのかと斗哉は黒猫を睨んだ。
「ふざけるなっ」
「じゃあもう一度、時間を戻してみる?」
斗哉は黒猫の申し出に、ううっと後ずさる。
「戻したって無駄なんだ。返って更なる『代償』を支払わせられるだけ。大体さ、お前たちのせいじゃんっ」
黒猫は、二人を大きな瞳で睨み上げた。
「あの日、お前たちが『汚れ』なんて持ち込まなければ、『強い言霊』なんか吐かなければ、ボクは怨霊なんかにならなかったんだっ。この世界から成仏できたのにっ。いなくなれたのに!」
二人はそうだと気付かされた。白の言うことが正しいなら、この黒猫を怨霊化させてしまった原因の半分は自分たちにある。
斗哉はもうどうすればいいのか分からなくなり、その場に膝から崩れて落ちた。このまま何もできず、黙って人が消えていくのを、見ていることしかできない。
心乃香はそんな斗哉を黙って見つめていた。そして、黒猫に向き直った。
「……肩代わり、できない?」
心乃香は静かに呟いた。
つづく
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