70 / 95
3rd round after
第70話「三周目〜三つの呪い〜」
しおりを挟む
斗哉と心乃香が地元に着いた時は、もう日が傾きかけていた。
二人は神社の周辺を探し回ったが、相変わらずあの古い鳥居に続く階段は見つからない。しかも心乃香が抱いている黒猫は、ぐったりしていて目覚めない。斗哉は遂に痺れを切らし黒猫の耳を引っ張った。
「おい、起きろっ。神社に着いたぞっ」
「ううん」と黒猫は眠そうに唸ると、前脚の爪を出して斗哉の手を引っ掻いた。
「痛って!」
「それは、こっちの台詞だわ。ったく、しょうがないなあ、もー」
そうぼやくと、心乃香に抱かれたまま黒猫は目をパチンパチンと瞬かせた。しばらくして、日が完全に落ちると、道路に面したあの鳥居に続く階段が現れた。
斗哉と心乃香はその不可思議な現象に、息を呑む。
そして黒猫は、心乃香の胸から飛び降りた。二人を振り返ると一瞥し、その階段をピョンピョンと登っていった。斗哉と心乃香は目を見合わせると黙って頷き合い、その黒猫の後を追いかけた。
***
古びた鳥居と奥のお堂。すべてはここから始まったのだ。
黒猫はお堂の扉前の縁の上にちょこんと横になっていた。ぐわっーとノビをすると、顔を前脚で洗い首を傾けて斗哉と心乃香を見つめてきた。
「単刀直入に言う。ボクにはこの『呪い』は解けない」
***
二人はその黒猫の答えに始め固まっていたが、斗哉は次第にワナワナと震え出し、黒猫に掴みかかった。掴みかかったったはずだった。斗哉の手がスッと虚空を描く。掴めない。姿は見えているのに掴めないのだ。
「そう何度もやられるか、バーカ」
「こいつっ」
心乃香はその二人のやり取りに、やれやれと被りを振った。
「ボクも何とかしようと、出雲で調べたんだ。でも方法なんてなかった。もうどうにもならないんだ。酒でも飲まなきゃやってられないだろっ」
と黒猫は逆ギレし、あーあと仰向けに横になる。
「世の中には、どーにもできないことがあるんだよ。お前たちだって分かってるんじゃないのか」
二人は何も言い返せずに、黙ってその場に立ち尽くしていた。
それじゃあ自分に縁のある人間たちがどんどん消えていくのを、黙って見てろって言うのかと斗哉は黒猫を睨んだ。
「ふざけるなっ」
「じゃあもう一度、時間を戻してみる?」
斗哉は黒猫の申し出に、ううっと後ずさる。
「戻したって無駄なんだ。返って更なる『代償』を支払わせられるだけ。大体さ、お前たちのせいじゃんっ」
黒猫は、二人を大きな瞳で睨み上げた。
「あの日、お前たちが『汚れ』なんて持ち込まなければ、『強い言霊』なんか吐かなければ、ボクは怨霊なんかにならなかったんだっ。この世界から成仏できたのにっ。いなくなれたのに!」
二人はそうだと気付かされた。白の言うことが正しいなら、この黒猫を怨霊化させてしまった原因の半分は自分たちにある。
斗哉はもうどうすればいいのか分からなくなり、その場に膝から崩れて落ちた。このまま何もできず、黙って人が消えていくのを、見ていることしかできない。
心乃香はそんな斗哉を黙って見つめていた。そして、黒猫に向き直った。
「……肩代わり、できない?」
心乃香は静かに呟いた。
つづく
二人は神社の周辺を探し回ったが、相変わらずあの古い鳥居に続く階段は見つからない。しかも心乃香が抱いている黒猫は、ぐったりしていて目覚めない。斗哉は遂に痺れを切らし黒猫の耳を引っ張った。
「おい、起きろっ。神社に着いたぞっ」
「ううん」と黒猫は眠そうに唸ると、前脚の爪を出して斗哉の手を引っ掻いた。
「痛って!」
「それは、こっちの台詞だわ。ったく、しょうがないなあ、もー」
そうぼやくと、心乃香に抱かれたまま黒猫は目をパチンパチンと瞬かせた。しばらくして、日が完全に落ちると、道路に面したあの鳥居に続く階段が現れた。
斗哉と心乃香はその不可思議な現象に、息を呑む。
そして黒猫は、心乃香の胸から飛び降りた。二人を振り返ると一瞥し、その階段をピョンピョンと登っていった。斗哉と心乃香は目を見合わせると黙って頷き合い、その黒猫の後を追いかけた。
***
古びた鳥居と奥のお堂。すべてはここから始まったのだ。
黒猫はお堂の扉前の縁の上にちょこんと横になっていた。ぐわっーとノビをすると、顔を前脚で洗い首を傾けて斗哉と心乃香を見つめてきた。
「単刀直入に言う。ボクにはこの『呪い』は解けない」
***
二人はその黒猫の答えに始め固まっていたが、斗哉は次第にワナワナと震え出し、黒猫に掴みかかった。掴みかかったったはずだった。斗哉の手がスッと虚空を描く。掴めない。姿は見えているのに掴めないのだ。
「そう何度もやられるか、バーカ」
「こいつっ」
心乃香はその二人のやり取りに、やれやれと被りを振った。
「ボクも何とかしようと、出雲で調べたんだ。でも方法なんてなかった。もうどうにもならないんだ。酒でも飲まなきゃやってられないだろっ」
と黒猫は逆ギレし、あーあと仰向けに横になる。
「世の中には、どーにもできないことがあるんだよ。お前たちだって分かってるんじゃないのか」
二人は何も言い返せずに、黙ってその場に立ち尽くしていた。
それじゃあ自分に縁のある人間たちがどんどん消えていくのを、黙って見てろって言うのかと斗哉は黒猫を睨んだ。
「ふざけるなっ」
「じゃあもう一度、時間を戻してみる?」
斗哉は黒猫の申し出に、ううっと後ずさる。
「戻したって無駄なんだ。返って更なる『代償』を支払わせられるだけ。大体さ、お前たちのせいじゃんっ」
黒猫は、二人を大きな瞳で睨み上げた。
「あの日、お前たちが『汚れ』なんて持ち込まなければ、『強い言霊』なんか吐かなければ、ボクは怨霊なんかにならなかったんだっ。この世界から成仏できたのにっ。いなくなれたのに!」
二人はそうだと気付かされた。白の言うことが正しいなら、この黒猫を怨霊化させてしまった原因の半分は自分たちにある。
斗哉はもうどうすればいいのか分からなくなり、その場に膝から崩れて落ちた。このまま何もできず、黙って人が消えていくのを、見ていることしかできない。
心乃香はそんな斗哉を黙って見つめていた。そして、黒猫に向き直った。
「……肩代わり、できない?」
心乃香は静かに呟いた。
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる