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3rd round after

第68話「三周目〜逸る心〜」

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 大広間に残された心乃香と白は呆然と、斗哉が行ってしまった方を見ていた。しばらくして白が自分を取り戻し、心乃香に向き直った。

「心乃香様、お話がございます」

***

 斗哉はいつの間にか、出雲大社の境内を走っていた。四の鳥居を抜けて、松の参道を走る。

 苦しい――息ができない。でも、今の自分には走ることしかできない。

 正門の鳥居を抜け神門通りに出る。もうすぐ駅が見えるというところで、斗哉は気が付いた。

(しまった、慌てて荷物全部置いて来たっ)

 自分に急ブレーキを掛けて、今来た道を振り返る。正門からトコトコ歩いて来る人影が見えた。その人影は、荒い息を整えながら立ち止まっている斗哉の元にやって来た。

「何も持たずに、どうやって帰るつもり?」

 心乃香が斗哉のリュックを差し出した。

***

「わ、悪い」

 斗哉は心乃香が一緒に来ていたことも忘れていた。荷物を慌てて受け取る。

「始発が来るまでまだ少しある。焦ったって、どうしようもないでしょ」
「だけどっ」

 その更に先を言おうとして、斗哉はとまどった。そうだ、こいつの言う通り。焦ったって仕方ない。でも逸る気持ちが抑えられなくて。

(くっそ、泣きそう……)

 一人なら泣いていたかもしれない。でもこいつの前で絶対泣きたくない。斗哉は感情を必死で抑え込んだ。そうすると足りなかった酸素が頭に供給され、不思議と頭が冴えて来た。

「ごめん、そうだよな」

 心乃香は仕方ないなと呆れながら斗哉を見ると、ふっと微笑んだ。

***

 斗哉は復路のルート検索をしながら、心乃香の膝の上で、スヤスヤと眠る黒猫を見遣った。

「電車って、動物乗せるのに、何か許可いるのかな」
「あ、クロのこと? 大丈夫よ。この子、普通の人には見えないらしいから。白が言ってた」
「へー、神様だからか? いや怨霊か。本当騙されたわっ」

 はあっと斗哉は溜め息を吐いた。心乃香は黒猫の背中を撫でながら呟いた。

「神も怨霊も、本質はそんなに変わらないと思うけどね」
「え、いやいや、ぜんぜん違うでしょっ」

「そうかな」と心乃香は、黒猫の背中を優しく撫でていた。斗哉はその黒猫の様子を見て少しイラッとした。

(くっ、こいつ。如月の膝の上で、気持ちよさそうにしやがって……)

つづく
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