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3rd round after
第63話「三周目〜夕餉〜」
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湯殿から出ると、脱衣所に自分の服の代わりに浴衣が置いてあった。斗哉は「旅館かよっ」と突っ込みたくなったが、自分の着ていた服はずぶ濡れだったので、有り難く貸してもらうことにした。
着替えを終え外に出ると、暗い朱塗りの廊下に、蝋燭の炎が浮かび上がっていた。
白が言うには今この神殿は閑散期なので、使われているところ以外、照明が灯っていないらしく、湯殿から出たら灯りが導く方向に行けば、行くべき場所に行けるとのことだ。
(神の世界も、閑散期ってあるのか)
斗哉が灯りの続く方に歩いて行くと、明るく大変大きな広間に出た。その広間の真ん中に、浴衣姿の心乃香がちょこんと座っていた。
(あ、浴衣……)
斗哉はその心乃香の姿を見て、あの祭りの日に見た、彼女の浴衣姿を思い出した。その時のような、外出用の煌びやかな姿ではないけれど、いつもの彼女と違う艶やかな姿に、ドキッとした。
(何、考えてるんだ、オレは。この非常時にっ)
斗哉は煩悩を払うべく、慌てて頭を振った。心乃香は目の前に置いてあるお膳を凝視しており、こちらに気が付く様子もない。心乃香の方へ行こうとした時、白が御簾越しに現れた。
「あ、斗哉様もお出になられましたか。ささ、此方へどうぞ。お腹が空きましたでしょ」
心乃香の隣に円座が用意されており、その目の前に心乃香同様お膳が用意されていた。その朱塗りのお膳の上には、蕎麦が盛られた三段重ねの漆器と、それとは別に薬味と出し汁の容器が乗っていた。
斗哉はそれを見た途端、腹が減って来た。思えば、心乃香にサンドウィッチを分けてもらって以来、何も口にしていない。
斗哉は円座に座ると、いただきますと蕎麦に手を付けようとしたが、横から心乃香がそれを制した。食欲の権化のような心乃香に、止められることが斗哉は意外だった。
(どうした?)
「これ、食べて大丈夫なの?」
心乃香は白を睨んだ。斗哉は心乃香に何か思うところがあるようだと、箸を置いた。
「黄泉の国の食べ物を口にすると、現世に戻れなくなるって言うけど、これは大丈夫なの?」
斗哉はその心乃香の質問にギョッとした。表情は見えないが、白は薄く笑っているようだ。
「お若いのによく知っていますね、そんなこと。大丈夫ですよ。ここは黄泉の国ではありませんし、その『出雲蕎麦』は地上から取り寄せた物ですから。折角なので、郷土料理をと思いまして。安心してお上がりください」
心乃香は少しの間、白を睨んでいたが、それじゃあいただくわと、箸に手を付けた。分かっていたことだが、心乃香は蕎麦をあっという間に食べ切ると、追加の蕎麦を要求していた。
つづく
着替えを終え外に出ると、暗い朱塗りの廊下に、蝋燭の炎が浮かび上がっていた。
白が言うには今この神殿は閑散期なので、使われているところ以外、照明が灯っていないらしく、湯殿から出たら灯りが導く方向に行けば、行くべき場所に行けるとのことだ。
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斗哉が灯りの続く方に歩いて行くと、明るく大変大きな広間に出た。その広間の真ん中に、浴衣姿の心乃香がちょこんと座っていた。
(あ、浴衣……)
斗哉はその心乃香の姿を見て、あの祭りの日に見た、彼女の浴衣姿を思い出した。その時のような、外出用の煌びやかな姿ではないけれど、いつもの彼女と違う艶やかな姿に、ドキッとした。
(何、考えてるんだ、オレは。この非常時にっ)
斗哉は煩悩を払うべく、慌てて頭を振った。心乃香は目の前に置いてあるお膳を凝視しており、こちらに気が付く様子もない。心乃香の方へ行こうとした時、白が御簾越しに現れた。
「あ、斗哉様もお出になられましたか。ささ、此方へどうぞ。お腹が空きましたでしょ」
心乃香の隣に円座が用意されており、その目の前に心乃香同様お膳が用意されていた。その朱塗りのお膳の上には、蕎麦が盛られた三段重ねの漆器と、それとは別に薬味と出し汁の容器が乗っていた。
斗哉はそれを見た途端、腹が減って来た。思えば、心乃香にサンドウィッチを分けてもらって以来、何も口にしていない。
斗哉は円座に座ると、いただきますと蕎麦に手を付けようとしたが、横から心乃香がそれを制した。食欲の権化のような心乃香に、止められることが斗哉は意外だった。
(どうした?)
「これ、食べて大丈夫なの?」
心乃香は白を睨んだ。斗哉は心乃香に何か思うところがあるようだと、箸を置いた。
「黄泉の国の食べ物を口にすると、現世に戻れなくなるって言うけど、これは大丈夫なの?」
斗哉はその心乃香の質問にギョッとした。表情は見えないが、白は薄く笑っているようだ。
「お若いのによく知っていますね、そんなこと。大丈夫ですよ。ここは黄泉の国ではありませんし、その『出雲蕎麦』は地上から取り寄せた物ですから。折角なので、郷土料理をと思いまして。安心してお上がりください」
心乃香は少しの間、白を睨んでいたが、それじゃあいただくわと、箸に手を付けた。分かっていたことだが、心乃香は蕎麦をあっという間に食べ切ると、追加の蕎麦を要求していた。
つづく
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