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3rd round after

第61話「三周目〜雨〜」

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 斗哉が祈りを解くと、雨の降りが酷くなって来た。軒下に居ても地面に反射した雨粒が飛んで来る。次第に雨の勢いで、視界が真っ白になって来た。

(通り雨だろうけど)

 斗哉はトイレに行っている心乃香が心配になった。

(このまま、もし如月にも会えなくなったら)

 おそらくどこかで彼女も雨宿りしてる。雨が止むのを、きっと待ってる。でも――

 斗哉は逸る気持ちを抑えられず、拝殿の軒から駆け出した。視界は信じられないくらい真っ白に染まり、真夏なのに雨のせいか肌寒い――いや寒いくらいだ。

 途中、斗哉は自分がどこを走っているのか分からなくなった。自分は馬鹿だ。雨が止むまでやっぱり待っていれば良かったと、ぐっと目を閉じる。

 彼女と行き違いになるかもしれない。自分はいつもそうだ。行動してからそのことにいつも後悔してると、斗哉は瞼の奥に重みを感じた。

(でも、止められない――)

 その時、斗哉の耳の奥で鈴の音が聞こえた。

 斗哉はこの鈴の音に聞き覚えがあった。カッと目を見開く。

(まさかっ)

 夢中でその音のした方に走る。

(お願いだ、今度こそっ)

 前方に赤い傘をさしている人影が斗哉の視界に入った。斗哉はその人影に向かって走り、その人影を捕まえた。その勢いで赤い傘が吹き飛んだ。

「なっ、何っ。どうしたの、八神っ?」

 斗哉は掴んだ手を引き寄せて、そのまま心乃香を抱きしめた。

 斗哉は何も言わない。ただ心乃香の存在を確かめるように、更に抱きしめる腕の力を強めた。

***

(……な、何これ。どうして、こんなことになってるのっ?)

 何が何やら分からない心乃香は、斗哉の体温を感じ、もうどうしていいか分からなかった。こんなに密着されては関節技も決められない。何より斗哉の力が強くて、振り解けない。

(それに――)

 斗哉の体の震えが伝わってきた。心乃香はしばらく斗哉に抱きしめられたままでいたが、観念したようにそっと斗哉の背中に腕を回した。

「何か、あったの?」

 すると程なくして、斗哉は心乃香の肩に埋めていた顔を上げた。泣いていた。

「え、何? 本当にどうしたの」
「ごめん。何でもない。でも、良かった……」

 そうホッとしたように、斗哉は自分の額を心乃香の額にあてがった。

 その時、二人の耳の奥で鈴の音が鳴った。確かに聞こえた。次の瞬間、真っ白に染まった空に激しく稲光が光り、雷が落ちた時のような爆音が辺りに響き辺り、二人は驚いて反射的に目を瞑った。

 二人が目を開けた時、そこは自分達の知っている出雲大社の境内ではなかった。少なくとも二人はそう感じていた。

 真っ白な空間に、大きな石造りの鳥居が二人の目の前にそびえ立っていた。

つづく
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