51 / 95
3rd round after
第51話「三周目〜八神家〜」
しおりを挟む
八神の自宅は学校からさほど遠く離れてないところにあり、とあるマンションの一角にあるようだった。セキュリティバリバリの高級マンションでなくて良かったと、私はホッとした。もしそのようなところだったら、もう八神の家に辿り着くまでに臆していただろう。
男子の家どころか、女子の家にも他人の家に上がったことがない。親戚の家ですら緊張するくらいなのだ。自分にしたらここまで来たことすら、大変な勇気がいることだった。
私は八神の家のドアの前に立つと、震えている体を落ち着かせる為、まず深呼吸した。
何で自分がこんなことをしなければならないのかと言う、八神への恨み言が頭をよぎる。もし最悪なことになっていたら許さない、絶対許さない。
私は意を決して、八神家のインターホンを押した。
何の反応もない――
私は湧き上がって来る不安を掻き消すように、もう一度インターホンを押した。
誰も出ない――
もし八神が本当に体調が悪いなら、本人だけでも自宅にいる筈だ。もしくはいるのだが、体調が悪すぎてインターホンに出られない、それとも病院に行っていて誰もいないのか。
その場合どうしようもない。でももしそうでなかったら。八神の連絡先など知らない。自宅の場所を聞いた時、家電の番号も聞いておけば良かったと私は後悔した。
私は近所の迷惑を考えず、ドンドンと乱暴に八神の家のドアを叩いた。
「八神、居ないのっ? どうしたのっ、大丈夫なのっ?」
何の反応もない。これは自分の手には余ると思った。とにかく担任に連絡して八神の家のことを相談しようと、スマホで学校の電話番号を確認しようとした。
その時――
キィッと、力なく八神家の玄関のドアが開いた。その薄暗い隙間から見えたのは、変わり果てた姿の八神だった。
***
「……如月?」
姿を現した八神の顔色は大変悪く、まるで生気がない。ゾンビにでもなったと言われても疑わなかっただろう。ここ二日で、八神は何十年も老けこんでしまったかのようだった。
「ちょっ、ちょっと、あんた大丈夫なのっ?」
八神は何か言おうとしてふらついた。私は慌てて八神を支えた。
「オレ、どうしたら……」
八神は定まらない視点で、譫言のように呟いた。
***
「両親が消えたっ?」
私は八神を居間のソファーに座らせながら、八神から発せられた事実に、驚きを隠せなかった。
「どう言うこと? ちゃんと説明して」
「昨日の朝起きたら、母さんが消えてたんだ。陸や将暉が消えた時と同じように。父さんに確認しても、そんな人知らないって言うし……」
八神は俯きながら、頭を抱えて続けた。
「昨日は学校休んで、あの神社に行ってたんだ。一日中張ってたけど、あの猫にはやっぱ会えなくて。それで今日朝起きたら」
八神の声は震えていた。
「父さんも消えてた。スマホのデータからも、昔の写真からも、両親の存在が無くなってる。もうオレどうしたらいいか分かんなくって……」
八神は今にも泣き出しそうなのを、必死で堪えてるようだった。私は他人がこんなに弱っている姿を見るのは初めてだった。八神のような人間でも、こんな風になってしまうものなんだと、その姿に親近感を覚えた。
まったく自分とは、違う世界の人間のように思ってた。決して分かり合えないと思っていたのに。
「とにかく、あんたお風呂入って来なさいよ」
「……え?」
「あんた、臭うわよ」
つづく
男子の家どころか、女子の家にも他人の家に上がったことがない。親戚の家ですら緊張するくらいなのだ。自分にしたらここまで来たことすら、大変な勇気がいることだった。
私は八神の家のドアの前に立つと、震えている体を落ち着かせる為、まず深呼吸した。
何で自分がこんなことをしなければならないのかと言う、八神への恨み言が頭をよぎる。もし最悪なことになっていたら許さない、絶対許さない。
私は意を決して、八神家のインターホンを押した。
何の反応もない――
私は湧き上がって来る不安を掻き消すように、もう一度インターホンを押した。
誰も出ない――
もし八神が本当に体調が悪いなら、本人だけでも自宅にいる筈だ。もしくはいるのだが、体調が悪すぎてインターホンに出られない、それとも病院に行っていて誰もいないのか。
その場合どうしようもない。でももしそうでなかったら。八神の連絡先など知らない。自宅の場所を聞いた時、家電の番号も聞いておけば良かったと私は後悔した。
私は近所の迷惑を考えず、ドンドンと乱暴に八神の家のドアを叩いた。
「八神、居ないのっ? どうしたのっ、大丈夫なのっ?」
何の反応もない。これは自分の手には余ると思った。とにかく担任に連絡して八神の家のことを相談しようと、スマホで学校の電話番号を確認しようとした。
その時――
キィッと、力なく八神家の玄関のドアが開いた。その薄暗い隙間から見えたのは、変わり果てた姿の八神だった。
***
「……如月?」
姿を現した八神の顔色は大変悪く、まるで生気がない。ゾンビにでもなったと言われても疑わなかっただろう。ここ二日で、八神は何十年も老けこんでしまったかのようだった。
「ちょっ、ちょっと、あんた大丈夫なのっ?」
八神は何か言おうとしてふらついた。私は慌てて八神を支えた。
「オレ、どうしたら……」
八神は定まらない視点で、譫言のように呟いた。
***
「両親が消えたっ?」
私は八神を居間のソファーに座らせながら、八神から発せられた事実に、驚きを隠せなかった。
「どう言うこと? ちゃんと説明して」
「昨日の朝起きたら、母さんが消えてたんだ。陸や将暉が消えた時と同じように。父さんに確認しても、そんな人知らないって言うし……」
八神は俯きながら、頭を抱えて続けた。
「昨日は学校休んで、あの神社に行ってたんだ。一日中張ってたけど、あの猫にはやっぱ会えなくて。それで今日朝起きたら」
八神の声は震えていた。
「父さんも消えてた。スマホのデータからも、昔の写真からも、両親の存在が無くなってる。もうオレどうしたらいいか分かんなくって……」
八神は今にも泣き出しそうなのを、必死で堪えてるようだった。私は他人がこんなに弱っている姿を見るのは初めてだった。八神のような人間でも、こんな風になってしまうものなんだと、その姿に親近感を覚えた。
まったく自分とは、違う世界の人間のように思ってた。決して分かり合えないと思っていたのに。
「とにかく、あんたお風呂入って来なさいよ」
「……え?」
「あんた、臭うわよ」
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール
Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・
黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に
儚くも露と消えていく』
ある朝、
目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。
小学校六年生に戻った俺を取り巻く
懐かしい顔ぶれ。
優しい先生。
いじめっ子のグループ。
クラスで一番美しい少女。
そして。
密かに想い続けていた初恋の少女。
この世界は嘘と欺瞞に満ちている。
愛を語るには幼過ぎる少女達と
愛を語るには汚れ過ぎた大人。
少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、
大人は平然と他人を騙す。
ある時、
俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。
そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。
夕日に少女の涙が落ちる時、
俺は彼女達の笑顔と
失われた真実を
取り戻すことができるのだろうか。
我らおっさん・サークル「異世界召喚予備軍」
虚仮橋陣屋(こけばしじんや)
青春
おっさんの、おっさんによる、おっさんのためのほろ苦い青春ストーリー
サラリーマン・寺崎正・四〇歳。彼は何処にでもいるごく普通のおっさんだ。家族のために黙々と働き、家に帰って夕食を食べ、風呂に入って寝る。そんな真面目一辺倒の毎日を過ごす、無趣味な『つまらない人間』がある時見かけた奇妙なポスターにはこう書かれていた――サークル「異世界召喚予備軍」、メンバー募集!と。そこから始まるちょっと笑えて、ちょっと勇気を貰えて、ちょっと泣ける、おっさんたちのほろ苦い青春ストーリー。
プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜
三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。
父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です
*進行速度遅めですがご了承ください
*この作品はカクヨムでも投稿しております
青天のヘキレキ
ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ
高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。
上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。
思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。
可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。
お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。
出会いは化学変化。
いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。
お楽しみいただけますように。
他コンテンツにも掲載中です。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる