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1.5st round
第40話「一・五周目〜心乃香の苦悩〜」
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翌日には八神斗哉の通夜が行われ、数日後に彼の葬儀が行われた。
クラスメイトの葬儀だ。だが私は行かなかった。行けなかった。他にも八神の死がショックで、参列出来なかった生徒も何人かいたし、特に咎められることもなかった。
確かにショックではあったが、私のショックは他の生徒のような「悲しみ」からではない。もしかしたら八神の死は自分のせいかもしれないという懸念からくるものだ。
「死ねばいい」と思っただけで、実際自分が手を下した訳ではない。誰だって一度くらい、誰かに対して「死ね」と思ったことがあるのではないだろうか。その言葉を発したことがあるのではないか。
人間なら普通のことだ。特段「悪」ではない。たまたま死ねばいいと願った時に偶然が重なって、相手が死んだだけのことだ。
私は思うように動かなくなった体をベッドに預けたまま、脳だけを動かして必死にそう思い込もうとした。
***
数日後、私の体は付き物が落ちたように動きだし、普通に学校に通えるようになっていた。
久しぶりに来た教室内はまだどこか暗くて、皆必死に日常に戻ろうとしているように感じた。
特に菊池と五十嵐のうな垂れ方は酷かった。もっと軽薄なイメージだったのに。私を告白ドッキリに嵌めようとした、ロクでもない連中だ。自分にとって何の関係もない赤の他人のことなら、何とも思わないだろうに――身内のこととなると別なのかと、少々呆れた。
大丈夫だ。もうすぐ夏休みになる。長い休みの間に悲しみの感情も薄くなって行き、二学期になる頃には、クラスメイトたちも何もなかったように生活出来るだろう。
私は空席になった八神の席を見てそう思っていた。
***
だが夏休み手前になっても、八神の死を悼む「空気」は一切なくならなかった。
クラスメイトたちだけでなく、八神の死のことは学校中で噂になっていたし、自分はそれまで、まったく知らなかったのだが、八神は大変交友関係が広く、葬儀の参列者はかなりの数だったらしい。自分のしたことを忘れさせないぞと、八神が死んでからでも責めているように私は感じた。まるで呪いだと思った。
実際八神がそう思って死んで行ったかは分からないが、私にはそう感じられたのだ。
「殺される覚悟のないものに、攻撃する資格はない」
あの祭りの日、感じていたことがまさに形になってしまった。因果応報――そう思うと笑いすら込み上げてきた。
つづく
クラスメイトの葬儀だ。だが私は行かなかった。行けなかった。他にも八神の死がショックで、参列出来なかった生徒も何人かいたし、特に咎められることもなかった。
確かにショックではあったが、私のショックは他の生徒のような「悲しみ」からではない。もしかしたら八神の死は自分のせいかもしれないという懸念からくるものだ。
「死ねばいい」と思っただけで、実際自分が手を下した訳ではない。誰だって一度くらい、誰かに対して「死ね」と思ったことがあるのではないだろうか。その言葉を発したことがあるのではないか。
人間なら普通のことだ。特段「悪」ではない。たまたま死ねばいいと願った時に偶然が重なって、相手が死んだだけのことだ。
私は思うように動かなくなった体をベッドに預けたまま、脳だけを動かして必死にそう思い込もうとした。
***
数日後、私の体は付き物が落ちたように動きだし、普通に学校に通えるようになっていた。
久しぶりに来た教室内はまだどこか暗くて、皆必死に日常に戻ろうとしているように感じた。
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大丈夫だ。もうすぐ夏休みになる。長い休みの間に悲しみの感情も薄くなって行き、二学期になる頃には、クラスメイトたちも何もなかったように生活出来るだろう。
私は空席になった八神の席を見てそう思っていた。
***
だが夏休み手前になっても、八神の死を悼む「空気」は一切なくならなかった。
クラスメイトたちだけでなく、八神の死のことは学校中で噂になっていたし、自分はそれまで、まったく知らなかったのだが、八神は大変交友関係が広く、葬儀の参列者はかなりの数だったらしい。自分のしたことを忘れさせないぞと、八神が死んでからでも責めているように私は感じた。まるで呪いだと思った。
実際八神がそう思って死んで行ったかは分からないが、私にはそう感じられたのだ。
「殺される覚悟のないものに、攻撃する資格はない」
あの祭りの日、感じていたことがまさに形になってしまった。因果応報――そう思うと笑いすら込み上げてきた。
つづく
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