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3st round

第34話「三周目〜彼女の本性〜」

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 それからオレにとって七月十三日までの一日一日が、気の抜けないものになった。

 ある日の朝、何気なく朝食をとりながら、見ていたテレビの内容を見ていて、オレはハッと気が付いた。

『本日は夕方から、雨が降りそうです――』

 今日は一回目で如月と初めて一緒に帰った日。帰る時、雨が降ってきていた。如月は「今日は夕方から降水確率五十パーセントだったよ」と確かに昇降口で言ったのだ。

 まさか一緒の傘に入り下校するところまで計算してた? いや、雨が確実に降るとは分からないし、一緒に帰ろうと誘ったのはこっちだ。オレはその時、如月がどこまで狡猾なのか確かめてみたくなった。

***

 この日の放課後のこの時間、大きな段ボールを抱え、フラフラしている如月を見かけたはずだと、オレは辺りを確認しながら如月を探していた。

 案の定、階段の先で段ボールを持ち、フラフラしている如月を見つけた。

「如月、大丈夫? 手伝うよ」
「えっ、あ、八神君っ? わわっ」

 突然声を掛けられて、如月は荷物を持ったままバランスを崩して倒れ込みそうになった。そうなることは分かっていた。オレは背後から如月の体を支えた。慌てたフリをして、如月の体をすぐ離す。

「あ、ありがとう」と如月は、持っていた荷物を落とさないように抱え込んでいた。

 オレはその荷物かなり重いんだよなと思い出しつつ「手伝うよ」と、如月の手荷物を持ち上げた。

 まあよくこんな荷物を、如月は素手で運んでいたな。中身は新書だ。図書室の備品になるので、代車にでも乗せて運べば良いのに。

 オレはその時、あることに気が付いた。

 これも計算なんじゃ? わざとオレに助けさせる計算。オレが点数を稼ぎやすいように仕掛けられた計算……

 一回目、オレは隣をちょこちょこ歩いて来る如月を哀れに思ってた。騙されてるのも知らないで惨めで哀れだと。

 これが如月の計算だったとしたら、まんまと嵌ってるのは自分の方で、哀れで惨めなのは自分だったのだと、オレは改めて思わされた。

***

 荷物を図書室に運び終わり、オレがふうっと一息着いてた頃、如月が図書準備室から急いで出てきた。

「これ、お礼。良かったら飲んで」と如月は、お茶のペットボトルをオレに差し出した。

 よくよく考えれば、このタイミングで飲み物が出てきたのもおかしい。ここから自販機まではかなり距離があるし、あらかじめ荷物を運ばせたお礼の飲み物を、用意していたんじゃないだろうか。

 気遣いの出来る女子アピールか。そうだとしたら、まんまと引っかかったよ。
 
 如月の狡猾さに感心していると、「あ、お茶嫌いだった?」と如月は申し訳なさそうに俯いて、ペットボトルを引っ込めようとした。オレはすかさずペットボトルを掴んだ。

「いや、嫌いじゃないよ。ありがとう」

 そうお礼を言うと、如月は柔らかく微笑んだ。可愛い笑顔だと思ってたのに――本当に過去の自分は馬鹿だった。

 ここまで来ると、オレは如月に腹が立ってきていて、本当は止めようと思っていたことを実行することにした。どうしても我慢出来なかったからだ。

 本来なら、ここで自分が一緒に帰ろうと誘ったのだが――

「じゃあな、委員会の仕事頑張れよ」

 貰ったペットボトルを片手に持ち、それを振り挨拶するように図書室を出ようとした。

「あ、あの待って!」

 おもむろに、如月の方に振り返ってみた。

「その……良かったらだけど、今日一緒に帰らない?」

 オレがなかなか返事をしないので、如月は痺れを切らし次を続けた。

「あ、ごめん。嘘、やっぱりいい」

 すぐ引き下がるところが、奥ゆかしくもあるが、そう思わせることこそ如月の作戦なのだろう。本当流石だよ。

「いいよ」
「あ、でも、私まだ委員会の仕事があって、今日これから用事とかある?」
「ないよ。大丈夫だから、待ってる」
「本当? ……あ、ありがとう」
「じゃ、教室で待ってるから」

 そう答え手を振りながら、オレは図書室を後にした。
 
 確定した。こちらから誘わなくても、如月から誘ってきた。はじめから如月は、自分と一緒に下校する気でいたのだ。 

つづく
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