上 下
29 / 95
2st round

第29話「二周目〜人生の決定事項〜」

しおりを挟む
 オレの足は自然にあの神社に向かっていた。しかし神社のどこをどう走ったのか分からない、ただ見覚えがある場所に出た。あの鳥居とお堂だ。繋がった! オレは不思議とそう感じた。

「おい、黒猫っ、いるんだろう! 出て来いよっ」

 虚しくオレの叫び声だけ辺りに響いた。微かに残っていた日の光が完全に消えたと思ったとき、ニャアーと猫の鳴き声がした。

***

五月蝿うるさいな、偉そうに何だよ」

 その声の方に向き直り見上げると、鳥居の上にちょこんと黒猫が座っていた。

「黒猫、お前本当にちゃんと時間を戻したのかっ?」
「何だよ、藪から棒に。ボクの力にケチをつける気!」

 黒猫は心外とばかりに苛立ち、身を起こし威嚇してきた。

(この黒猫の反応、時間は本当に戻ってるんだ、やっぱり……)

「如月が消えたままなんだ」

 黒猫は威嚇を解き、ギョッと目を見開いた。

「……えっ、何でだろ」
「お前の仕業じゃないのか」
「はあっ? そんなことしてないよっ。何でボクがそんなことわざわざ……」

(こいつのせいではない。ってことは)

「何だよ、急に黙ってっ。イチャモンつけておいて今度はダンマリか」

 鳥居上から、黒猫の威嚇の気配がさらに強くなったのを感じた。本当は考えたくないことだったが、先程の嫌な予感が色濃くなった。

 もしかしたら時間を戻して、オレが違う行動をしたから、未来が変わってしまったのかもしれない。それでなぜ如月心乃香が消えたのかは理屈は分からないが。

 だが「時間の巻き戻し」というすでに理屈の分からないことが起こっている。理屈なんか考えるだけ無駄な気がしてきた。

 オレは七月四日に戻り、本来告白するはずだった事実を捻じ曲げて、その当日学校を休んでしまった。もしこのことが未来を変える結果になり、如月が消えた原因になっていたとしたら――

「あっ」
「え、何っ? いきなり黙って、気持ち悪いぞっ」

 黒猫がいつの間にか、近くまで寄ってきていた。近くで見れば尻尾は二股に分かれているものの、いたって普通の黒い猫だ。小さな体でオレを見上げている。

「オレの行動で、未来が変わることってある?」
「は? んー、どうだろう。滅多なことでは変わらないと思うけど、大きなことをすれば変わるかも」
「そうか」
「え、何? お前なんかしたの」

***

「え、告白しなかった?」
「……そうすれば、あんなことにはならないかと思って」
「そりゃ、変わるかもね。お前が告白することはおそらくお前の人生において『決定事項』だったんじゃない?」

 決定事項という明確な言葉に、オレは背筋がゾクッとなった。

「決定事項は運命としてもう決まっていることなんだ。絶対変えられないし、変えちゃいけない。それを無理やり変えたから、変なことになったのかも」
「どういうことだよっ」
「ボクに怒るなよ! だいたいお前のせいだろ!」

 黒猫がエメラルドグリーンの瞳で睨め上げてきた。

(決定事項。オレが告白ドッキリを仕掛けるのは決定事項なんだ……)

 なぜだか胸がズキンとなった。そんな感傷に浸る資格なんて今のオレにはない。でも――

「時間を……時間をもう一度、戻してくれ」
 
つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

飛ぶことと見つけたり

ぴよ太郎
青春
学生時代に青春し忘れていた国語教師、押井。 受験前だというのにやる気がみえない生徒たち、奇妙な同僚教師、犬ばかり構う妻。満たされない日々を送っていたある日の帰り道、押井はある二人組と出会う。彼らはオランダの伝統スポーツ、フィーエルヤッペンの選手であり、大会に向けて練習中だった。 押井は青春を取り戻そうとフィーエルヤッペンに夢中になり、やがて大会に臨むことになる。そこで出会ったのは、因縁深きライバル校の社会教師、山下だった。 大人になっても青春ができる、そんなお話です。 ちょっと眺めの3万文字です(笑)

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...