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相葉悠一 番外編
第84話「一歩踏み出す勇気」
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「すう、はあ……」
オレは放課後の図書室のドアの前で、深く深呼吸した。今時分、彼女は図書委員の仕事でここにいるはずだ。
緊張する。
女子を何処かに誘うなんて、初めてだったから。あの奇跡の本の力で、百パーセント断られないと分かっていても、緊張するもんは、緊張する。
本の契約を、履行したときのことを思い出す。
***
「あのさ、キミ、自分から彼女を誘う気満々みたいだけど、願いごとの内容上、キミが誘わなくても、彼女から“いつか”は誘われると思うよ」
「えっ、そうなのか」
オレはその状況を想像してみた。悪くない。というか、正直嬉しい。女子から何処へ行こうなんて、誘われたことがない人生だった。
でも。
「“いつか”って、いつだよ」
「知らないよ、そんなの。キミの願いごとだろ。この中途半端で煮え切らないなところ、実にキミらしい願いごとだ。度胸がないっていうか、フワッとしてるというか、そんなんだから、ど……」
「もう、いいっつうのっ」
こんな猫にまでっ。なんでここまでいじられないといけないんだっ。
でも、たしかにそうかもしれない。この他力本願というか、いつか待っていれば、幸せが降ってくるんじゃないかという、受け身体質。
分かっているけど、自分に自信がない。失敗することが、すごく怖い。ただでさえ惨めな自分が、もっと酷いものに成り果てる気がして。
なにも起こさなければ、なにも起きないけど、なにも失わないんだ。
そうやって、今まで生きてきた。
でも、渡辺と出掛けられることは、奇跡の力で確定している。絶対に失敗することはないんだ。それだったらせめて、“待つ”だけでなく、自分で動きたい。
なにを偉そうにと、自分自身が可笑しくなった。成功が確定してるのに、なにを息巻いているのかと。
きっと、世の中の“自分から行動できる人間”からみたら、オレはなんとも滑稽に映るだろう。情けない、そんなんだからダメなんだと。
でも、自分に自信がない。勇気が出ない。きっと、やってしまえばどってことないことなのかもしれない。行動する“補助輪”が今、オレの目の前にある。そんなものはズルイと、反則だと言われるかもしれない。行動できる人間は、それを自分の中に見つけ出し、自らの力で道を切り拓いて行くんだろう。
出来れば、そんな強い人間に生まれたかったし、努力でなんとか出来たのかもしれない。
でも、今だけ――今回だけ、その奇跡の力で、背中を押して欲しい。
その勇気が一瞬でも持てるなら、他になにもいらない。今、渡辺を誘える勇気が持てるなら、もうなにもいらないから。
***
ここまで後押ししてもらって、本当情けない。足が震えてくる。百パーセント大丈夫だと言った、白猫の言葉がウソだとしたら?
だって、ウソじゃない保証なんてないんだ。いまさらだけど、『願いが叶う本』を信じるなんて本当にどうかしてる。いつもの自信のない、情けないオレが顔を出す。
――いや、信じてる。
信じたい!
きっと渡辺は、オレと一緒に出掛けてくれる。オレは意を決して、図書室の扉を開いた。
終わり
オレは放課後の図書室のドアの前で、深く深呼吸した。今時分、彼女は図書委員の仕事でここにいるはずだ。
緊張する。
女子を何処かに誘うなんて、初めてだったから。あの奇跡の本の力で、百パーセント断られないと分かっていても、緊張するもんは、緊張する。
本の契約を、履行したときのことを思い出す。
***
「あのさ、キミ、自分から彼女を誘う気満々みたいだけど、願いごとの内容上、キミが誘わなくても、彼女から“いつか”は誘われると思うよ」
「えっ、そうなのか」
オレはその状況を想像してみた。悪くない。というか、正直嬉しい。女子から何処へ行こうなんて、誘われたことがない人生だった。
でも。
「“いつか”って、いつだよ」
「知らないよ、そんなの。キミの願いごとだろ。この中途半端で煮え切らないなところ、実にキミらしい願いごとだ。度胸がないっていうか、フワッとしてるというか、そんなんだから、ど……」
「もう、いいっつうのっ」
こんな猫にまでっ。なんでここまでいじられないといけないんだっ。
でも、たしかにそうかもしれない。この他力本願というか、いつか待っていれば、幸せが降ってくるんじゃないかという、受け身体質。
分かっているけど、自分に自信がない。失敗することが、すごく怖い。ただでさえ惨めな自分が、もっと酷いものに成り果てる気がして。
なにも起こさなければ、なにも起きないけど、なにも失わないんだ。
そうやって、今まで生きてきた。
でも、渡辺と出掛けられることは、奇跡の力で確定している。絶対に失敗することはないんだ。それだったらせめて、“待つ”だけでなく、自分で動きたい。
なにを偉そうにと、自分自身が可笑しくなった。成功が確定してるのに、なにを息巻いているのかと。
きっと、世の中の“自分から行動できる人間”からみたら、オレはなんとも滑稽に映るだろう。情けない、そんなんだからダメなんだと。
でも、自分に自信がない。勇気が出ない。きっと、やってしまえばどってことないことなのかもしれない。行動する“補助輪”が今、オレの目の前にある。そんなものはズルイと、反則だと言われるかもしれない。行動できる人間は、それを自分の中に見つけ出し、自らの力で道を切り拓いて行くんだろう。
出来れば、そんな強い人間に生まれたかったし、努力でなんとか出来たのかもしれない。
でも、今だけ――今回だけ、その奇跡の力で、背中を押して欲しい。
その勇気が一瞬でも持てるなら、他になにもいらない。今、渡辺を誘える勇気が持てるなら、もうなにもいらないから。
***
ここまで後押ししてもらって、本当情けない。足が震えてくる。百パーセント大丈夫だと言った、白猫の言葉がウソだとしたら?
だって、ウソじゃない保証なんてないんだ。いまさらだけど、『願いが叶う本』を信じるなんて本当にどうかしてる。いつもの自信のない、情けないオレが顔を出す。
――いや、信じてる。
信じたい!
きっと渡辺は、オレと一緒に出掛けてくれる。オレは意を決して、図書室の扉を開いた。
終わり
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