74 / 83
相葉悠一 番外編
第75話「失恋」
しおりを挟む
オレは本当になにも、言えなくなってしまった。重い。なんだってこんな本、オレに渡したんだっ。願いを叶えることも、叶えないことも、もうどちらも正しくないような気がしてきた。
どうしたら、どうしたらいいんだろう。
せめてどうしてこの本を、渡辺がオレに譲ったのか、それが分かったら。
分からない。分からないけど、オレが願いを叶えなければ、渡辺の覚悟が無駄になるのは確かだ。
「まだ、貸し出し期限までには時間がある。もう少し、考えてみなよ。結論を出すのはまだ早い」
そう囁く、白猫先輩の声が聞こえたと思ったのに、白猫先輩の姿はオレの部屋から消えていた。
静寂が戻ってくる。さっきまで、白猫先輩とワイのワイのと騒いでたのがウソみたいだ。オレの部屋はなんの変哲もない、いつものオレの部屋に戻っていた。
***
オレは真っ暗な自室のベッドの中で、あの願いが叶う本のことを、改めて考えていた。
正直、渡辺が何故本をオレに譲ったのかの答えは、どんなに考えても分からなかったし、彼女に聞いても、本当のことを話してくれる保証はない。
だいたい、どんな答えだったら、オレは納得出来るのだろう。それにどうしてオレは、こんなに願いを叶えたくないんだろうか。
相手が有名な芸能人や、著名人、極端な美人や、すごく可愛いアイドルとかならまだしも、別に渡辺と出掛けるくらい、どってことない。
それなのに。
石田に言われた、あの言葉が蘇る。
『それが、恋だよ』
だから、違うってのっ。どいつもこいつも、恋愛脳がっ。
でも、どうしてこんなにオレは、渡辺に対する想いを“恋”と認めたくないんだろう。
絶世の美女じゃないから? スタイル抜群のお姉さんじゃないから? オレが言うのもなんだけど、渡辺はごく普通の女の子だ。自分のことを棚に上げて、オレはそんな平凡な女に、恋をしていると思いたくないんだろうか。
新学期の始めに図書室の窓から、外のグラウンドを見つめていた、渡辺の横顔がフッと脳裏に蘇った。
違う。それだったら、まだ救われた。
「……っ」
分かりたくなかった。でも本当は分かってた。渡辺はオレ以外の誰かに“恋”をしてるんだ。その恋心は、あの奇跡の本に辿り着くぐらいの強く深いものだ。
オレが付け入る隙間なんて、微塵もない。
それが心の何処かで分かってたから、認めたくなかったんだ。オレのこの想いが“本当の恋”だろうが、なんだろうが、彼女に届くことはない。この想いが報われることはない。
その想いに気が付いた途端、失恋したのだと分かって、オレは胸が張り裂けそうになった。こんな気持ちになったのは、生まれて初めてだった。
つづく
どうしたら、どうしたらいいんだろう。
せめてどうしてこの本を、渡辺がオレに譲ったのか、それが分かったら。
分からない。分からないけど、オレが願いを叶えなければ、渡辺の覚悟が無駄になるのは確かだ。
「まだ、貸し出し期限までには時間がある。もう少し、考えてみなよ。結論を出すのはまだ早い」
そう囁く、白猫先輩の声が聞こえたと思ったのに、白猫先輩の姿はオレの部屋から消えていた。
静寂が戻ってくる。さっきまで、白猫先輩とワイのワイのと騒いでたのがウソみたいだ。オレの部屋はなんの変哲もない、いつものオレの部屋に戻っていた。
***
オレは真っ暗な自室のベッドの中で、あの願いが叶う本のことを、改めて考えていた。
正直、渡辺が何故本をオレに譲ったのかの答えは、どんなに考えても分からなかったし、彼女に聞いても、本当のことを話してくれる保証はない。
だいたい、どんな答えだったら、オレは納得出来るのだろう。それにどうしてオレは、こんなに願いを叶えたくないんだろうか。
相手が有名な芸能人や、著名人、極端な美人や、すごく可愛いアイドルとかならまだしも、別に渡辺と出掛けるくらい、どってことない。
それなのに。
石田に言われた、あの言葉が蘇る。
『それが、恋だよ』
だから、違うってのっ。どいつもこいつも、恋愛脳がっ。
でも、どうしてこんなにオレは、渡辺に対する想いを“恋”と認めたくないんだろう。
絶世の美女じゃないから? スタイル抜群のお姉さんじゃないから? オレが言うのもなんだけど、渡辺はごく普通の女の子だ。自分のことを棚に上げて、オレはそんな平凡な女に、恋をしていると思いたくないんだろうか。
新学期の始めに図書室の窓から、外のグラウンドを見つめていた、渡辺の横顔がフッと脳裏に蘇った。
違う。それだったら、まだ救われた。
「……っ」
分かりたくなかった。でも本当は分かってた。渡辺はオレ以外の誰かに“恋”をしてるんだ。その恋心は、あの奇跡の本に辿り着くぐらいの強く深いものだ。
オレが付け入る隙間なんて、微塵もない。
それが心の何処かで分かってたから、認めたくなかったんだ。オレのこの想いが“本当の恋”だろうが、なんだろうが、彼女に届くことはない。この想いが報われることはない。
その想いに気が付いた途端、失恋したのだと分かって、オレは胸が張り裂けそうになった。こんな気持ちになったのは、生まれて初めてだった。
つづく
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる