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渡辺明日奈 編
第61話「果実園リーベル」
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私は果実園リーベルの店内に、わけも分からず案内され、席に着いてから、疑問に思っていたことを相葉君にぶつけた。
「で、なんでリーベルなのよ」
「だっておまえ、来たいって言ってたじゃん」
「え?」
そんなこと、こいつに言ったことあったかなと、私は頭をフル回転させ記憶を探ってみる。ついにそれは相葉悠一とまともに初めて話をした、二学期初日の「初めて相葉悠一が、図書室に罰当番をやりに来た日」まで、さかのぼった。
あっ!
『いくらくらい掛かるんだろうね~。私、そんなお金があるんなら、果実園リーベルで、秋の新作パフェでも食べたいわ』
あれだ。
お金で女を買う買わないの話をしていたときだ。そんなお金があるなら、新作パフェが食べたいと言った気がする。良くそんなこと覚えてたな。
「いや、言ったかもしれないけど」
「それにしても今日平日だぞ。なんでこんなに混んでるんだよ」
相葉君は、面白くなさそうに悪態をついた。
「休日は、こんなモンじゃないらしいわよ。店に入るまで、普通に長蛇の列になるらしいから」
私は相葉君のあまりにゆるい態度に、呑まれそうになってることに気が付いた。客が多いとかパフェがどうとか、今、重要なのはそんなことではない。
「じゃなくてっ。そんなことどうだっていいのよっ。あの本、どうなったのっ? 願い、叶えたんでしょ?」
私は堪らず、相葉君に迫った。
「……。叶ったよ」
……。
叶ったんだ。
そうか、良かった。
なんだろうこの気持ち。温かな、なにかがこみ上げて来るよう。嬉しい。
私、彼の願いに担えたのだ。
「そう、良かったわね、本当に良かった……」
もう、なんだか泣きそうだ。
「おまえさ、なにか誤解してない?」
「え?」
「オレの願いがなんだったか、誤解してない?」
「ああ、綺麗なお姉さんと一発……」
「バカッ、なに言い出すんだっ。声でかいよっ。違うって、そんなんじゃねーよっ」
相葉君は慌てて、私の言葉を遮った。
「だいたい、そんな願いじゃ叶わなかったんじゃねぇ」
「なんで、ダメなのよっ。なにがいけないのっ?」
「……っ。知るかよっ」
そんな。
一度本を見つけ出した相葉君には、使う資格があると思ったから渡したのに。文芸部室で彼が見た本は、“願い叶えの本”じゃなかったの? いや、本を開けたんだ。やっぱり資格はあったんだわ。
「じゃあ、願いってなによ。なにが叶ったの?」
「……いや、その」
相葉君はバツが悪そうに答えを渋っていたが、ついには観念して白状した。
「一度でいいから、渡辺とここに来たいって、願った」
つづく
「で、なんでリーベルなのよ」
「だっておまえ、来たいって言ってたじゃん」
「え?」
そんなこと、こいつに言ったことあったかなと、私は頭をフル回転させ記憶を探ってみる。ついにそれは相葉悠一とまともに初めて話をした、二学期初日の「初めて相葉悠一が、図書室に罰当番をやりに来た日」まで、さかのぼった。
あっ!
『いくらくらい掛かるんだろうね~。私、そんなお金があるんなら、果実園リーベルで、秋の新作パフェでも食べたいわ』
あれだ。
お金で女を買う買わないの話をしていたときだ。そんなお金があるなら、新作パフェが食べたいと言った気がする。良くそんなこと覚えてたな。
「いや、言ったかもしれないけど」
「それにしても今日平日だぞ。なんでこんなに混んでるんだよ」
相葉君は、面白くなさそうに悪態をついた。
「休日は、こんなモンじゃないらしいわよ。店に入るまで、普通に長蛇の列になるらしいから」
私は相葉君のあまりにゆるい態度に、呑まれそうになってることに気が付いた。客が多いとかパフェがどうとか、今、重要なのはそんなことではない。
「じゃなくてっ。そんなことどうだっていいのよっ。あの本、どうなったのっ? 願い、叶えたんでしょ?」
私は堪らず、相葉君に迫った。
「……。叶ったよ」
……。
叶ったんだ。
そうか、良かった。
なんだろうこの気持ち。温かな、なにかがこみ上げて来るよう。嬉しい。
私、彼の願いに担えたのだ。
「そう、良かったわね、本当に良かった……」
もう、なんだか泣きそうだ。
「おまえさ、なにか誤解してない?」
「え?」
「オレの願いがなんだったか、誤解してない?」
「ああ、綺麗なお姉さんと一発……」
「バカッ、なに言い出すんだっ。声でかいよっ。違うって、そんなんじゃねーよっ」
相葉君は慌てて、私の言葉を遮った。
「だいたい、そんな願いじゃ叶わなかったんじゃねぇ」
「なんで、ダメなのよっ。なにがいけないのっ?」
「……っ。知るかよっ」
そんな。
一度本を見つけ出した相葉君には、使う資格があると思ったから渡したのに。文芸部室で彼が見た本は、“願い叶えの本”じゃなかったの? いや、本を開けたんだ。やっぱり資格はあったんだわ。
「じゃあ、願いってなによ。なにが叶ったの?」
「……いや、その」
相葉君はバツが悪そうに答えを渋っていたが、ついには観念して白状した。
「一度でいいから、渡辺とここに来たいって、願った」
つづく
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