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渡辺明日奈 編
第52話「ライオンと一角獣」
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「食料を奪って、大切な人に与えるわ」
「それは他人を犠牲にしても、という意味かね」
「そうよ」
「なんともワガママで、自己中心的で、短絡的だね。実に“人間”らしいよ」
タマゴのお化けは、自分の背中から黒く艶やかなステッキを取り出すと、それを地面に突き立てた。ゆっくりとステッキが倒れる。
「こっちに行くといい」
そんな無責任な。
「運命がそう言っている」
***
半ば呆れつつも、私はステッキの指示す方に進んだ。フッ“運命”ね。もし私が、本に辿りつける運命だとしたら、こっちの道は、正しいということだ。
そして私には、この先なにが待ち受けているか、だいたいの見当がついていた。ライオン、一角獣、白いナイト。きっとこんな感じに違いない。
そう、私はあることを思い出したのだ。
***
指し示された方向へ、しばらく森の中を歩いていると、涼やかな美しいせせらぎが聞こえて来た。そういえば、どれだけ歩いただろうか。足はパンパンで喉はカラカラ。私は音のする方へ重い足を引き摺り、必死に歩いた。
***
気が付けば、鬱蒼としていた森を抜けていた。ここは木々がまばらでだいぶ見通しがいい。先ほどから聞こえていた、せせらぎの音を生み出す、渓流に出たようだ。
川上の岸辺に、二つの影が見える。もしかしてと思い、私はそっとその影に近づいた。
ライオンと一角獣が王冠を中央に据え、全力疾走した後のように、息を切らせ倒れていた。いや、実際走り回っていたのだろう、その王冠を巡って。
確かに、こんな……感じだった。
「おやつの時間だから、ちょっと休憩だ」
「そうしよう。だが、肝心のお菓子がない」
そう、いまさらライオンが喋ろうが、一角獣が喋ろうが、私は驚かない。
「そこのお嬢さん、ポケットからいい匂いがする。お菓子を、持っているんじゃないのかい」
「え。私、お菓子なんて、持ってな……」
そう答えながら、私はスカートのポケットを弄ってみる。さっきまで手紙が入っていたはずなのに、いつの間にか飴玉に替わっている。
一体、いつの間に。
「おおっ。キャンディーじゃないかねっ」
「それをくれたら、いいことを教えてあげよう」
来たっ。
「差し上げます」
「おおっ。プラムキャンディーだ」
「これは美味いなっ」
ライオンと一角獣は幸せそうに、キャンディーを頬張っていた。
「それで、なにを教えてくださるの」
「貴方の大切な人は、悪魔に目玉をえぐられてしまいました」
「貴方ならどうする?」
つづく
「それは他人を犠牲にしても、という意味かね」
「そうよ」
「なんともワガママで、自己中心的で、短絡的だね。実に“人間”らしいよ」
タマゴのお化けは、自分の背中から黒く艶やかなステッキを取り出すと、それを地面に突き立てた。ゆっくりとステッキが倒れる。
「こっちに行くといい」
そんな無責任な。
「運命がそう言っている」
***
半ば呆れつつも、私はステッキの指示す方に進んだ。フッ“運命”ね。もし私が、本に辿りつける運命だとしたら、こっちの道は、正しいということだ。
そして私には、この先なにが待ち受けているか、だいたいの見当がついていた。ライオン、一角獣、白いナイト。きっとこんな感じに違いない。
そう、私はあることを思い出したのだ。
***
指し示された方向へ、しばらく森の中を歩いていると、涼やかな美しいせせらぎが聞こえて来た。そういえば、どれだけ歩いただろうか。足はパンパンで喉はカラカラ。私は音のする方へ重い足を引き摺り、必死に歩いた。
***
気が付けば、鬱蒼としていた森を抜けていた。ここは木々がまばらでだいぶ見通しがいい。先ほどから聞こえていた、せせらぎの音を生み出す、渓流に出たようだ。
川上の岸辺に、二つの影が見える。もしかしてと思い、私はそっとその影に近づいた。
ライオンと一角獣が王冠を中央に据え、全力疾走した後のように、息を切らせ倒れていた。いや、実際走り回っていたのだろう、その王冠を巡って。
確かに、こんな……感じだった。
「おやつの時間だから、ちょっと休憩だ」
「そうしよう。だが、肝心のお菓子がない」
そう、いまさらライオンが喋ろうが、一角獣が喋ろうが、私は驚かない。
「そこのお嬢さん、ポケットからいい匂いがする。お菓子を、持っているんじゃないのかい」
「え。私、お菓子なんて、持ってな……」
そう答えながら、私はスカートのポケットを弄ってみる。さっきまで手紙が入っていたはずなのに、いつの間にか飴玉に替わっている。
一体、いつの間に。
「おおっ。キャンディーじゃないかねっ」
「それをくれたら、いいことを教えてあげよう」
来たっ。
「差し上げます」
「おおっ。プラムキャンディーだ」
「これは美味いなっ」
ライオンと一角獣は幸せそうに、キャンディーを頬張っていた。
「それで、なにを教えてくださるの」
「貴方の大切な人は、悪魔に目玉をえぐられてしまいました」
「貴方ならどうする?」
つづく
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