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渡辺明日奈 編
第30話「助っ人」
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「相葉君。なに突っ立ってんの」
「えっ、えっと」
相葉悠一は、しどろもどろ答えた。なんだかその態度にイラッときた。
「もしかして、佐々木先生が言ってた助っ人って、あなた?」
「あ。うん、そう」
お昼休みに、佐々木先生に呼び出されたことを思い出した。佐々木先生は、私の所属する図書委員の顧問で、図書室の新書古書の大幅な入れ替え作業に、遅刻の罰当番を兼ねた助っ人を回す、とかなんとか、言っていた気がする。
助っ人なんて、正直いらなかった。今の私にとって、委員会の仕事が“忙しい”ことは救いだったからだ。だが、用意してくれるというのを断るのも、佐々木先生に悪い気がして、一応承諾したんだった。
「渡辺が書籍整理とかいうのの、担当?」
「そうよ」
まあ適当に、仕事を教えればいいだろう。そう思っていたのだが、まったくやる気のない態度を取られると、やっぱり面白くない。相葉悠一は人の話を聞こうともせず、ぼーっと、側の窓の外を眺めている。
なに様だこいつ。
「相葉君っ、聞いてる?」
「なんだよ」
「ぼーとしてないでよ。やる気あるの?」
相葉悠一は、ギラッと鋭く私を睨んだ。
「で、なにやればいいわけ。言ってくんなきゃ分かんないじゃん。あのさー、オレこれでも忙しいんだよねー。このあと、用事あるしさ。さくっと、指示してくれない?」
なんだこいつ。
逆切れですか。
なにが忙しいだ、コンチクショウ!
さっきの、理科室の一件を思い出す。あのときの、馬鹿な男子たちの会話の中で、確実に聞き覚えのある声があった。
相葉悠一とは、今までろくに話したことはなかったが、“出席番号一番”の男の声を、私が聞き間違うはずもない。
特にこの“出席番号一番”は、出席を一番で呼ばれることを運命付けられているのに、ものすごい遅刻魔で、私の中ではインパクト充分な出席番号一番だ。今日も新学期早々、遅刻して来た。
「用事? また理科室で、お友達と猥談?」
相葉悠一の顔が、見る見る青くなっていく。
やはりビンゴだ。
もっと、言ったれ。
「年上の、おねーさんだったんだよ」
「名前は友香さんっていってさ、ちょっと垂れ目で可愛いの」
「女のアソコって、実際グチャッとしてて気持ちわ」
「おまえ、な、なんでっ」
オロオロと慌て出す相葉悠一の姿は、まるでピエロだ。
「壁に耳あり障子に目ありってコトワザ知ってる?」
「ど、どこで、聞いて」
「隣の理科準備室。あーゆー話はさ、女の子がいるかもしれないところで、得意げに話さない方がいいよ。なんかモテない男って、アピールしてるみたいだし」
青かった相葉悠一の顔は、耳まで真っ赤になっていた。微かに唇が震えている。なんて哀れで愚かしいんだろう。まあ、どうでもいいんだけどね。
「で、相葉君にやってもらう仕事なんだけど、追々説明していくから、とりあえず今日は、この書類に書いてある、新書の分別を色分けして欲しいの」
相葉悠一は観念したのか、しばらくして私の前の席に、どかっと腰を下した。
「追々説明してくって、今日いっぱいで終らないってことかよ」
「当たり前でしょ。佐々木先生に大変だからって、言われなかった?」
「言われたけどさ」
なんでこいつ、こんなに偉そうなのかしら。私的にはさほど困ってはいなかったが、このまま帰すのはなんだかシャクだ。
「人手足りないのよね。部活持ち多いし。あ、相葉君部活は?」
「入ってない」
「じゃ、いいじゃない。だいたい遅刻するのが悪いのよ。一学期中で、遅刻しないで来た日って、入学式のときくらいじゃない。あれもギリギリだったし」
「うるせーなっ、やればいいんだろ、仕事をっ」
本当、だらしない男。
相葉悠一は面倒くさそうに、しぶしぶ作業を開始した。
つづく
「えっ、えっと」
相葉悠一は、しどろもどろ答えた。なんだかその態度にイラッときた。
「もしかして、佐々木先生が言ってた助っ人って、あなた?」
「あ。うん、そう」
お昼休みに、佐々木先生に呼び出されたことを思い出した。佐々木先生は、私の所属する図書委員の顧問で、図書室の新書古書の大幅な入れ替え作業に、遅刻の罰当番を兼ねた助っ人を回す、とかなんとか、言っていた気がする。
助っ人なんて、正直いらなかった。今の私にとって、委員会の仕事が“忙しい”ことは救いだったからだ。だが、用意してくれるというのを断るのも、佐々木先生に悪い気がして、一応承諾したんだった。
「渡辺が書籍整理とかいうのの、担当?」
「そうよ」
まあ適当に、仕事を教えればいいだろう。そう思っていたのだが、まったくやる気のない態度を取られると、やっぱり面白くない。相葉悠一は人の話を聞こうともせず、ぼーっと、側の窓の外を眺めている。
なに様だこいつ。
「相葉君っ、聞いてる?」
「なんだよ」
「ぼーとしてないでよ。やる気あるの?」
相葉悠一は、ギラッと鋭く私を睨んだ。
「で、なにやればいいわけ。言ってくんなきゃ分かんないじゃん。あのさー、オレこれでも忙しいんだよねー。このあと、用事あるしさ。さくっと、指示してくれない?」
なんだこいつ。
逆切れですか。
なにが忙しいだ、コンチクショウ!
さっきの、理科室の一件を思い出す。あのときの、馬鹿な男子たちの会話の中で、確実に聞き覚えのある声があった。
相葉悠一とは、今までろくに話したことはなかったが、“出席番号一番”の男の声を、私が聞き間違うはずもない。
特にこの“出席番号一番”は、出席を一番で呼ばれることを運命付けられているのに、ものすごい遅刻魔で、私の中ではインパクト充分な出席番号一番だ。今日も新学期早々、遅刻して来た。
「用事? また理科室で、お友達と猥談?」
相葉悠一の顔が、見る見る青くなっていく。
やはりビンゴだ。
もっと、言ったれ。
「年上の、おねーさんだったんだよ」
「名前は友香さんっていってさ、ちょっと垂れ目で可愛いの」
「女のアソコって、実際グチャッとしてて気持ちわ」
「おまえ、な、なんでっ」
オロオロと慌て出す相葉悠一の姿は、まるでピエロだ。
「壁に耳あり障子に目ありってコトワザ知ってる?」
「ど、どこで、聞いて」
「隣の理科準備室。あーゆー話はさ、女の子がいるかもしれないところで、得意げに話さない方がいいよ。なんかモテない男って、アピールしてるみたいだし」
青かった相葉悠一の顔は、耳まで真っ赤になっていた。微かに唇が震えている。なんて哀れで愚かしいんだろう。まあ、どうでもいいんだけどね。
「で、相葉君にやってもらう仕事なんだけど、追々説明していくから、とりあえず今日は、この書類に書いてある、新書の分別を色分けして欲しいの」
相葉悠一は観念したのか、しばらくして私の前の席に、どかっと腰を下した。
「追々説明してくって、今日いっぱいで終らないってことかよ」
「当たり前でしょ。佐々木先生に大変だからって、言われなかった?」
「言われたけどさ」
なんでこいつ、こんなに偉そうなのかしら。私的にはさほど困ってはいなかったが、このまま帰すのはなんだかシャクだ。
「人手足りないのよね。部活持ち多いし。あ、相葉君部活は?」
「入ってない」
「じゃ、いいじゃない。だいたい遅刻するのが悪いのよ。一学期中で、遅刻しないで来た日って、入学式のときくらいじゃない。あれもギリギリだったし」
「うるせーなっ、やればいいんだろ、仕事をっ」
本当、だらしない男。
相葉悠一は面倒くさそうに、しぶしぶ作業を開始した。
つづく
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