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相葉悠一 編
第19話「図書室の秘めごと」
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【九月五日(金曜日)】
「あのさ」
渡辺がいつもより、低いトーンの声で、オレに尋ねてきた。
「何?」
「機嫌、悪いみたい」
「オレはいつもこうだよ」
「……怒ってる?」
「別に」
オレたちの間に、冷たく重たい空気が流れた。その日は、図書室の棚卸作業。新しく作った分類表通りに新書を入れるため、古書を移動させるのだ。
オレは機械作業のように、渡辺に言われた通り本を渡し、本を受け取って書籍ワゴンに詰めていった。
「昨日はごめん。ちょっと用事があって、百花から聞いた。私のこと、探してたんだって?」
途端にムカムカッとした感情が、オレの心をよぎる。ここ最近、渡辺に振り回されっぱなしの自分に、イラついていたからだ。
「それで、怒ってるんでしょ。悪かったわよ。謝るわよ」
「なに、してたの?」
冷静に答えたつもりだったが、いつもより、オレの声は低く響いた。渡辺は目を見開いた。驚いたようだ。オレはそのテンションのまま、言葉を続ける。
「用事ってなに?」
「……いや別に。相葉君には関係ないよ」
渡辺はバツが悪そうに、顔を背けた。その言葉と態度が、オレの心をさらに逆撫でした。
次には、渡辺の二の腕を掴んでいた。
渡辺は簡単によろめいて、バランスを崩す。
どんなにオレをイラつかせようが、軽い、弱い。女なんてこんなもんだ。
「キャア!」
「っ!」
「……」
「……」
図書室の一番奥。
誰もいない。オレたち以外は。
天井にオレンジ色の光が、微かに照りだされている。気が付いたらオレは、簡単に渡辺を図書室の床に押し倒していた。
オレを見つめる、渡辺の見開かれた瞳。
その下には形の良い鼻と、薄く艶やかな唇。
シャツの裾から伸びる白い腕。
床に広がる黒い髪。
細い喉元。
規則的に上下する、控えめだけど柔らかそうな膨らみ。
形のよい渡辺の唇が、かすかに動いた。
「私と……したいの?」
つづく
「あのさ」
渡辺がいつもより、低いトーンの声で、オレに尋ねてきた。
「何?」
「機嫌、悪いみたい」
「オレはいつもこうだよ」
「……怒ってる?」
「別に」
オレたちの間に、冷たく重たい空気が流れた。その日は、図書室の棚卸作業。新しく作った分類表通りに新書を入れるため、古書を移動させるのだ。
オレは機械作業のように、渡辺に言われた通り本を渡し、本を受け取って書籍ワゴンに詰めていった。
「昨日はごめん。ちょっと用事があって、百花から聞いた。私のこと、探してたんだって?」
途端にムカムカッとした感情が、オレの心をよぎる。ここ最近、渡辺に振り回されっぱなしの自分に、イラついていたからだ。
「それで、怒ってるんでしょ。悪かったわよ。謝るわよ」
「なに、してたの?」
冷静に答えたつもりだったが、いつもより、オレの声は低く響いた。渡辺は目を見開いた。驚いたようだ。オレはそのテンションのまま、言葉を続ける。
「用事ってなに?」
「……いや別に。相葉君には関係ないよ」
渡辺はバツが悪そうに、顔を背けた。その言葉と態度が、オレの心をさらに逆撫でした。
次には、渡辺の二の腕を掴んでいた。
渡辺は簡単によろめいて、バランスを崩す。
どんなにオレをイラつかせようが、軽い、弱い。女なんてこんなもんだ。
「キャア!」
「っ!」
「……」
「……」
図書室の一番奥。
誰もいない。オレたち以外は。
天井にオレンジ色の光が、微かに照りだされている。気が付いたらオレは、簡単に渡辺を図書室の床に押し倒していた。
オレを見つめる、渡辺の見開かれた瞳。
その下には形の良い鼻と、薄く艶やかな唇。
シャツの裾から伸びる白い腕。
床に広がる黒い髪。
細い喉元。
規則的に上下する、控えめだけど柔らかそうな膨らみ。
形のよい渡辺の唇が、かすかに動いた。
「私と……したいの?」
つづく
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