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相葉悠一 編
第10話「ウワサ」
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前日手伝った書籍色分け表を、オレはパラパラと捲った。
こんなにあるのかよと、図書室を利用しているやつらが憎らしくなった。本なんか読むより、他にやることあるんじゃねーか、若者はっ。
表を捲って行くうちに、すぐにオレが書いた字ではない文字が、目に飛び込んで来た。オレの字とは似つきもしない、キレイな字だ。
前日昇降口付近で見掛けた、渡辺の後ろ姿が思い出される。たしか六時を過ぎていた。オレが抜けたあとも、ずっと一人で作業していたのか。
以降全ての色分け表が、その字体で埋め尽くされていた。オレが前日手伝った分など、ほとんどないに等しかったようだ。
別に罪悪感などない。
オレは渡辺がいいと言うまでは、手伝ったのだから。それにこれは、もともと渡辺の仕事だ。
仕事?
仕事ったって、たかが図書委員会の仕事だ。こんなクソ真面目に、やる義務なんかない気がする。そういう律義な性格だってことか。ご苦労なこった。
オレは、渡辺がなぜここまでするのか理解できず、それとはまた別の、よく分からないモヤッとした感情に挟まれていた。
***
えっと、“原色化学実験プロセス図解”、分類科学、“理科薬品の利用と管理”、分類理科室整備、“インターネットと教育”、分類インターネット……
聞き慣れない単語がオレの頭を通り過ぎていく。正直まったく頭に残らない文字列だ。何の興味もない。
うがっー。
頭痛くなって来たっ。なんじゃこりゃ。もっと楽しそうな本、置けってんだよっ。グラビア雑誌とか、せめて官能小説とか!そう息巻いたものの、急激にオレの頭から血の気が引いていく。
無理か。
本って言えば、“願いが叶う本”なんて、本当に仕入れてくれたらいいのにな。そしたらとりあえず、この罰当番から開放してもらうか。本から魔人でも出て来るのか。ハハ。願いの代償に、魂持って行かれたりしてな。それはやだな。
『そ。今女子の間で、ひそかにウワサになってる本のこと。私も詳しくは知らないけど、なんでもその本を手にしたら、どんな願いでも叶うらしいよ~』
前日の、渡辺の言葉が頭を過ぎる。
ウワサ……
たかがウワサだけども。
されどウワサ。
火のないところに、煙は立たない。なんてコトワザもあった。本当にあったらいいのに、なんて夢みたいなことを考えてしまうのも、作業に対する逃避と、この図書室という空間にいるせいだろう。
「相葉くーんっ。もう、そろそろ五時回るけど、バイト大丈夫?」
渡辺の声が、返却カウンターの方から飛んで来た。バイトはないが、腹は減っている。帰りたい。
そういうわけで。
「やべーっ。オレ帰るわ! じゃあな、渡辺!」
「あ、相葉君っ」
つづく
こんなにあるのかよと、図書室を利用しているやつらが憎らしくなった。本なんか読むより、他にやることあるんじゃねーか、若者はっ。
表を捲って行くうちに、すぐにオレが書いた字ではない文字が、目に飛び込んで来た。オレの字とは似つきもしない、キレイな字だ。
前日昇降口付近で見掛けた、渡辺の後ろ姿が思い出される。たしか六時を過ぎていた。オレが抜けたあとも、ずっと一人で作業していたのか。
以降全ての色分け表が、その字体で埋め尽くされていた。オレが前日手伝った分など、ほとんどないに等しかったようだ。
別に罪悪感などない。
オレは渡辺がいいと言うまでは、手伝ったのだから。それにこれは、もともと渡辺の仕事だ。
仕事?
仕事ったって、たかが図書委員会の仕事だ。こんなクソ真面目に、やる義務なんかない気がする。そういう律義な性格だってことか。ご苦労なこった。
オレは、渡辺がなぜここまでするのか理解できず、それとはまた別の、よく分からないモヤッとした感情に挟まれていた。
***
えっと、“原色化学実験プロセス図解”、分類科学、“理科薬品の利用と管理”、分類理科室整備、“インターネットと教育”、分類インターネット……
聞き慣れない単語がオレの頭を通り過ぎていく。正直まったく頭に残らない文字列だ。何の興味もない。
うがっー。
頭痛くなって来たっ。なんじゃこりゃ。もっと楽しそうな本、置けってんだよっ。グラビア雑誌とか、せめて官能小説とか!そう息巻いたものの、急激にオレの頭から血の気が引いていく。
無理か。
本って言えば、“願いが叶う本”なんて、本当に仕入れてくれたらいいのにな。そしたらとりあえず、この罰当番から開放してもらうか。本から魔人でも出て来るのか。ハハ。願いの代償に、魂持って行かれたりしてな。それはやだな。
『そ。今女子の間で、ひそかにウワサになってる本のこと。私も詳しくは知らないけど、なんでもその本を手にしたら、どんな願いでも叶うらしいよ~』
前日の、渡辺の言葉が頭を過ぎる。
ウワサ……
たかがウワサだけども。
されどウワサ。
火のないところに、煙は立たない。なんてコトワザもあった。本当にあったらいいのに、なんて夢みたいなことを考えてしまうのも、作業に対する逃避と、この図書室という空間にいるせいだろう。
「相葉くーんっ。もう、そろそろ五時回るけど、バイト大丈夫?」
渡辺の声が、返却カウンターの方から飛んで来た。バイトはないが、腹は減っている。帰りたい。
そういうわけで。
「やべーっ。オレ帰るわ! じゃあな、渡辺!」
「あ、相葉君っ」
つづく
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