4 / 83
相葉悠一 編
第4話「渡辺明日奈」
しおりを挟む
つらい現実から目を逸らすべく、オレは日の傾きかけた、窓の外に目を向けた。
窓から、運動部の練習風景が見える。さまざまな人間たちが、思い思いに動き回っていた。あるやつは大声を出し、あるやつはそれに応えている。一つ一つの目標に向かって、真っ直ぐ進んでいるように見えた。
夕暮れに染まる彼らは、青臭い言い方だが、キラキラ輝いていた。
やつらの汗だろうか。若さだろうか。ほとばしる肉体? きっと、スポーツをしているやつらは、それだけで美しくて、稀有な存在なんだ。
同じ人間なのに、オレとはまったく別な生き物に見える。
自分が、惨めでちっぽけな人間であると言われているようで、いたたまれず、オレは視線を無理やり、グラウンドの奥の方にある、女子のテニスコートに視線を移した。
別の意味で、キラキラ輝いていた。
眩しかった。
ラケットを振りぬく時に揺れる、柔らかそうな胸、スコートからのぞく、白くてみずみずしい脚。あー、あいつら、やらせてくれないかな。
「相葉君っ、聞いてる?」
オレのピンクな妄想世界を、黄色いヒステリックな声が打ち破った。ヒステリック放送局は、眉間に皺を寄せて、オレを睨んでいた。
「なんだよ」
「ぼーとしてないでよ。やる気あるの?」
ないよっ、全然!
オレは渡辺に向き直って、逆に睨みつけてやった。
「で、なにやればいいわけ。言ってくんなきゃ、分かんないじゃん? あのさー、オレこれでも忙しいんだよねー。このあと、用事あるしさ、さくっと指示してくれない?」
オレは、今日起こったすべてのイラツキの原因が、目の前にいる、渡辺のせいだと言わんばかりに、捲くし立てた。
怒鳴ったあと、少し後悔した。
確かに、渡辺のヒステリックな声は、オレをイラつかせた、ワンオブ原因ではあったが、すべての責任はオレにあって、渡辺のせいではない。
単なる八つ当たりだった。
渡辺は、さほど大きくない目を丸くしていた。
やばっ。
泣かれたりでもしたら、厄介だ。
女ってもんは、やたら泣くものだ。
だが、そんな心配は無用だった。
渡辺の目は、すぐに通常の大きさに戻ると、そのまなざしは、机の上の書類に向かった。
「用事? また理科室で、お友達と猥談?」
今度はオレが、目を丸くする番だった。
つづく
窓から、運動部の練習風景が見える。さまざまな人間たちが、思い思いに動き回っていた。あるやつは大声を出し、あるやつはそれに応えている。一つ一つの目標に向かって、真っ直ぐ進んでいるように見えた。
夕暮れに染まる彼らは、青臭い言い方だが、キラキラ輝いていた。
やつらの汗だろうか。若さだろうか。ほとばしる肉体? きっと、スポーツをしているやつらは、それだけで美しくて、稀有な存在なんだ。
同じ人間なのに、オレとはまったく別な生き物に見える。
自分が、惨めでちっぽけな人間であると言われているようで、いたたまれず、オレは視線を無理やり、グラウンドの奥の方にある、女子のテニスコートに視線を移した。
別の意味で、キラキラ輝いていた。
眩しかった。
ラケットを振りぬく時に揺れる、柔らかそうな胸、スコートからのぞく、白くてみずみずしい脚。あー、あいつら、やらせてくれないかな。
「相葉君っ、聞いてる?」
オレのピンクな妄想世界を、黄色いヒステリックな声が打ち破った。ヒステリック放送局は、眉間に皺を寄せて、オレを睨んでいた。
「なんだよ」
「ぼーとしてないでよ。やる気あるの?」
ないよっ、全然!
オレは渡辺に向き直って、逆に睨みつけてやった。
「で、なにやればいいわけ。言ってくんなきゃ、分かんないじゃん? あのさー、オレこれでも忙しいんだよねー。このあと、用事あるしさ、さくっと指示してくれない?」
オレは、今日起こったすべてのイラツキの原因が、目の前にいる、渡辺のせいだと言わんばかりに、捲くし立てた。
怒鳴ったあと、少し後悔した。
確かに、渡辺のヒステリックな声は、オレをイラつかせた、ワンオブ原因ではあったが、すべての責任はオレにあって、渡辺のせいではない。
単なる八つ当たりだった。
渡辺は、さほど大きくない目を丸くしていた。
やばっ。
泣かれたりでもしたら、厄介だ。
女ってもんは、やたら泣くものだ。
だが、そんな心配は無用だった。
渡辺の目は、すぐに通常の大きさに戻ると、そのまなざしは、机の上の書類に向かった。
「用事? また理科室で、お友達と猥談?」
今度はオレが、目を丸くする番だった。
つづく
20
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
真夏の温泉物語
矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[1分読書]彼女を寝取られたので仕返しします・・・
無責任
青春
僕は武田信長。高校2年生だ。
僕には、中学1年生の時から付き合っている彼女が・・・。
隣の小学校だった上杉愛美だ。
部活中、軽い熱中症で倒れてしまった。
その時、助けてくれたのが愛美だった。
その後、夏休みに愛美から告白されて、彼氏彼女の関係に・・・。
それから、5年。
僕と愛美は、愛し合っていると思っていた。
今日、この状況を見るまでは・・・。
その愛美が、他の男と、大人の街に・・・。
そして、一時休憩の派手なホテルに入って行った。
僕はどうすれば・・・。
この作品の一部に、法令違反の部分がありますが、法令違反を推奨するものではありません。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる