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第二章 第601特務小隊編
8.「小隊長をやれ」と無茶振りされました(最終話)
しおりを挟む「えええええええっ」
ここは参謀本部のとある会議室。広くはないですが狭くもない会議室いっぱいにソフィアの叫ぶ声が響きわたりました。とはいってもこの会議室には、キース特務中佐とソフィアしかいないのですが...
「ま、またどうしてですか?」
「参謀本部が出した結論だ。大統領からも本人に無理強いさえしなければいいと、了承を得ている」
「断ることができると?」
「もちろんできる。しかし」
「しかし?」
「参謀本部の連中が特務少佐の店に毎日頼みに来ると思うぞ、土産をいっぱい持ってな」
「えええええっ」
がっくし
(こんなの断れるわけないじゃん)
そう心の中で呟いたソフィアはがっくりと肩を落としました。
ソフィアが言われたことというのは.「第601特務小隊の小隊長になってくれ」というものでした。
分かってはいた。闇組織を制圧した時にキース特務中佐がちらっと言っていたので...
しかし、あれから一週間も経たないうちに言われるとは思ってもいませんでした。
こうなった背景はもちろん、あの会議でのソフィアの発言や、闇組織を一人で制圧したことです。
シュミレーションとはいえ、5倍もの敵制圧の確率が90%を超えるという発言。
実は初め、参謀本部は誰も信じてはいませんでした。
しかし、50人もの闇組織の制圧をソフィア一人でやってしまいました。
この事実によって、参謀本部はソフィアが言ったことが本当なのだと確信したのでした。
真っ先に動いたのが陸軍参謀次長(陸軍の参謀のTOP)でした。
陸軍参謀次長は、総参謀長(参謀本部のTOP)に頼み込み、軍司令長官に大統領と相談してもらうように進言したのでした。
そして、軍司令長官、総参謀長、陸軍参謀次長の3名で第601特務小隊の訓練を視察 (ソフィアはいませんが)その練度の高さに驚愕しました。そして、これらを成し遂げたのが、ソフィアだということも...
しかし、参謀本部では総参謀次長を含め、複数高官が、内通者でした。
今まで、反社会勢力の全貌が全くの不明であった事は、そういった内通者の仕業であることは明白です。
それらに終止符を打つためにも、参謀本部を一新して、強力な部隊、つまり第601特務小隊を機能させる事が重要であるとキース司令官も納得し、今回の説得となったわけです。
「というわけで特務少佐に隊長になって欲しい、と参謀本部から泣きつかれたわけだ」
「何が「というわけ」ですかぁ!」
要するに、ソフィアが「私の部隊はとても優秀」(とても、というレベルではなく、桁外れに優秀)ということを無自覚に参謀本部の会議で発言してしまったことで、証明しろ、とばかりに闇組織の制圧の任務が与えられ、これを一人で成功させたという、まぁ自業自得です。
やかましいわっ
「それでキース特務中佐はどうなるんですか?」
「ん?私か...そうだな...おそらく第6軍の司令官に任命されると思うぞ」
「特務小隊が表に出る、ということですか?」
「まぁ表といっても謎の第6軍がある、ということだけだろうがな。あぁあれだ、正規軍の特殊部隊の様なものだ。特殊部隊はあることは知っているが、戦力や何をしてるか分からないだろう?そういう立場になると思う」
「確かに。特殊部隊の戦力や任務は謎ですもんね」
「実態を知るのは参謀本部のごく一部と各軍の将官(准将以上)くらいだろうな」
「でも、私はあくまで予備役であって、正規兵にはなりませんよ。本業は薬屋のオーナーです」
「それは分かっているし、無理強いしたら大変な事になるくらいは上も考えていると思うぞ」
「え?キース特務中佐は私が予備役に拘る理由を知っているのですか?」
「いや、事情があるとしか聞いていない。が、「木彫魔女の薬屋」といえば有名だからな。国内最大手の製薬会社がバックにいる。とか、大統領の指定店のオーナーともなれば勝手に軍に引き入れることなどできないだろう。それくらいは簡単に推測ができる。そもそもいくら予備役とはいえ、非常時でもないのに女性を強制的に軍に徴兵したことがバレたら大問題どころじゃ済まなくなる。暴動が起きるくらいの案件だぞ」
「なるほど」
「まぁ特務少佐はそういうヤバい奴、ってことだ」
「誰がヤバい奴ですかっ」
「そういうことで、引き受けてはくれないだろうか?」
「ああああ~もぅ~やればいいんでしょ、やれば...はぁぁぁ」
「すまない。助かる」
こうして不本意ながら、ほんっとうに不本意ながら小隊長の任を引き受けたソフィアでした。
「あああああ~またまたまたまた無茶振りだぁぁぁぁ」
今日も元気なソフィアの声が響き渡ります。
「やかましいわっ」
☆☆☆☆☆☆
「小隊長の任、謹んで拝命いたします」
ソフィアの小隊長の任命式は密かに執り行われました。
参加者は、特務大佐に昇進し、予想通り第6軍の司令官に任命されたたゲオルグ・キース特務大佐、軍司令長官、総参謀長、陸軍参謀次長、第601特務小隊9名、そしてなぜか大統領も出席していました。
「たぶん、軍が無理矢理任命していないか確かめに来たんだろう」とはキース特務大佐の言葉です。
ソフィアは小隊長の任と共に特務中佐に昇進しました。
副長には第一分隊長のサントス特務曹長が任命されました。
「あれ、サントス特務曹長は昇進しないのですか?」
「あぁ、彼は将校課程の試験を受けていないからな」
「私も受けていないと思いますけど」
「あぁ、君は特別だ。それに試験をしなくてもいいだけの実績もあるしな」
「...そうですか」
もう聞くのが面倒くさくなったソフィアでした。
任命式は終わり、第6軍について、キース特務大佐と打ち合わせをすることとなりました。
「それで、第6軍の立ち位置はどうなるのですか?」
「やはり正規軍の特殊部隊と同じだ。あることは知っているが、詳細を知るのは僅かで、最高機密扱いだ」
「隊員はどうなるのですか?色んな所から集めたことは知っています。だいたい第1軍の中隊から、第2軍からもちらほら、くらいは知っていますが...」
「あぁもう第6軍に移動だ。それに色々問題もあってな」
「問題?」
「ん~なんというか...各中隊で厄介者にな...その」
「厄介者?それほど問題がある隊員はいないと思うのですが...」
「問題はない...が...その優秀過ぎるというか...」
「優秀?なのに厄介者?意味がわかりませんが...」
「例えばだな、集合が掛かると真っ先に飛んできて、ピシッと指定位置に立っているんだ。完全装備で」
「それは当たり前だと思うのですが...」
「それがな、普通はもっとだらけているんだ、他の隊員は。ダラダラと集まる」
「はぁぁ?軍隊ですよね、ここ」
「ああ、シルバータニア特務中佐の言いたいことは分るが、正規軍が実戦出動することはほとんどないんだ。だから何時いかなる時もビシッと緊張するわけにもいかなくてな...その」
「ああ~なるほど」
ソフィアは小隊の訓練時に感じていたダラダラ感の正体が分かってきました。
何時本番があるのか分からないのに、ずっと緊張していられない、ということです。
それに、中隊規模ともなると、実戦ともなれば準備にもかなりの時間が必要になります。
戦車、装甲車や砲などの重火器、武器弾薬、輜重車両など。
歩兵はそれまでに、ゆっくり準備すればいいのだから、毎回の訓練でビシビシする必要もない。
逆に特務小隊は、何時招集が掛かるか分からないのは同じですが、いざ掛かれば即行動を起こさなければならない。つまり、緊急性の違いによるものです。
「だから、自分の部下や上司からすると「そんなにきっちりしなくていい」となるのだが、彼らは部隊の中でもエース中のエース。そんな優秀な人材を無下にもできなくて困っているらしい」
「私、厳しくし過ぎましたでしょうか?」
「いや、それはない。彼らはどんな戦場でも生還率は一番高いだろう、それにもう特務小隊に固定される」
「私は予備役ですが、いない時はどうされるのですか?」
「私が隊長を兼任する」
「ありがとうございます」
「いや、元々は私の仕事だ。特務中佐に押し付けている立場だ...それで、だ」
「何でしょう」
ソフィアはとても嫌な予感がしました。
「実はな...え...あれだ」
「あれ、とは何でしょう?
「まだ検討段階ではあるのだが...」
「はぁ」
「シルバータニア特務中佐に...その...特殊部隊の訓練もお願いできないかと」
「えええええええ」
「いや、まだ正式な話ではないのだが、考えてはもらえないだろうか」
「どどどうしてその様な話が...」
「それは...特務小隊があまりにも急激に成長してるものでな、特殊部隊の隊長から頭を下げられたんだ」
「そ、そうですか...考えるのだけなら」
「それはありがたい」
「しかし私はあくまで薬屋で、予備役ですからね!」
「分かっている」
「絶対分かってないだろう」とは言えないソフィアでした。
こうしてソフィアは小隊長になったのでした。
どうやらソフィアの無茶振りされ体質は治らないようです。
小隊長としてのソフィアは活躍するのかしないのか...
それは別の話。
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