完璧な侯爵令息である俺は、相手が地味でコミュ障の伯爵令嬢でも完璧な婚約者でなければならない

みこと

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第四話

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 2年生になって、俺とソフィアはそれぞれの研究を始めている。

 お互い、外へ出る機会も多く、最近は殆んど会っていない。
 俺も鉱山や製鉄所に行ったりしている。
 ソフィアはどこに行っているのか分からないが。
 研究内容は機密だから当たり前だ。もちろんソフィアも俺が何処に行っているかは知らない。

 い、いや寂しくなんてないぞ!
 俺は完璧な婚約者。相手の事情もちゃんと考えるのだ。



 そして、特に変わったこともなく、時間ときは過ぎていった。
 ああ、そういえば1学期が終わる頃に、あのソフィアに問題の間違いを指摘された教師が学院から去った。
 詳しくは分からないが、同じような問題を起こしていたのがバレたらしい。
 おそらく解雇されたのだろう。いい気味だ。




 今日は久しぶりにソフィアと市井に買い物だ。
 でででデートではないぞ!
 俺はあくまでソフィアの買い物に婚約者として付き合うだけだ。俺は完璧だからな。
 昨日はよく眠れなかった。研究の頑張りすぎだな。
 決して明日のソフィアとのお出かけが楽しみで眠れなかったのではない。そこは間違いのないように!

 いつもの商店街を2人で歩いていた。
 とはいっても護衛がたくさん居るが。
 2年生になって研究室を与えられたからだろう。
 1年生の時より明らかに護衛が増えた。過剰戦力だ。学院が家に何か言ったのか、決まりなのかは知らないが。

「ソフィー、今日は何を買うんだ?」
「…いいものがあれば」
「そうか」

 ソフィアはいつも、おそらく研究に使うものだろう、俺にもよくわからない物を買っていた。
 草とか、草とか…
 よし!今日は久しぶりだから、ソフィアに何かプレゼントしよう!
 うん、俺は完璧な婚約者だからな。これは当たり前の事だ。

 とはいえ何をプレゼントすればいいのだろう。
 さすがの俺も草の事は分からないし。
 こんな時の女性へのプレゼントってなんだろう、思いつかない。経験値が足りなすぎる。
 う~ん。こんなことなら事前にリサーチしておけば良かった。

「…ルー?」

 しまった!考え事をしていてソフィアを放置してしまった。

「あ、いや、ちょっと考え事をしていて」
「…ん」

 今のは「あ、そう」で、とくに気にしていないという事だ。うまくごまかせた。
 ソフィアはそういう事に鈍感なようで、実は周りをよく見ている。
 俺の事についてもだ。
 いかん!完璧な婚約者として俺は失格だ。もっと精進しなければ。

 プレゼント、プレゼント、と考えながら歩いていると、よく来ているこの商店街も違った景色に見える。
 色んな店があるのだな。
 商店街といっても、ここは平民でも裕福層や下位貴族などかよく来る高級なところだ。
 高位貴族は家に商人を呼ぶので、こういうところにはほとんど来ない。お忍びとかはあるらしいが。
 俺もソフィアに付き合って来るようになるまでは、全く知らなかった。

 しばらく歩いていると、オシャレなアクセサリーの店があった。
 店内にはカップルらしい客もちらほら見える。
 よし!ここだ。

「ソフィー、そ、その、今日は久しぶりだし、いつもと趣向をかえて、この店に入らないか?あ、嫌ならいいぞ」
「…ん」

 お、いいのか、むしろ嬉しそうだ。
 いやいや、また自意識過剰になるところだった。
 俺達は政略結婚!俺は完璧な婚約者!俺は完璧な婚約者!

 そして店に入ると…

「いらっしゃいませ!お嬢様!」
「え?」

 店に入るなり店員の女性がものすごい速さで近づいて来た、それもソフィアのことを知っているみたいだ。

「お連れ様はもしかして?」
「…ん、ルー」
「あ、これは失礼しました。シュタイン侯爵令息様、ご来店ありがとうございます」
「あ、いや…うむ」

 ななななんだ、俺の事まで知っているのか?
 このときの俺はソフィアが大きな商会の娘だったことをすっかり忘れていた。
 焦ったが、俺は完璧な侯爵令息でもある。なんとか威厳を保てた。と思う。たぶん。

「今日はどのような物をお探しなのですか?」
「い、いや、今日は久しぶりのお出かけだし、さ、最近会う機会も少ないので、ち、ちょっと趣向を変えて、ぷ、プレゼントなど、と。俺は婚約者だからな。まああくまで政略結婚だから、で、デートとかそういう感じでなくてな。まあ、そ、そういうわけだ」
「そうでしたか。ではごゆっくりご覧下さい。もし何かあれば遠慮なく申し付けて下さい」
「う、うむ」

 そう言うと女性店員は戻って行った。
 よし!自分でも何を言ったかよく分らなかったが何とか伝わったようだ。
 しかし何であんなニヤニヤしているんだ。あの女性店員。
 あれが営業スマイル、というやつか。

 この店にはおそらく高位貴族もお忍びで来るのだろう。高級感バシバシだ。
 そういえば、あの女性店員に何がいいか聞いておけば…いや、それでは完璧な婚約者ではないな。
 自分で決めなければプレゼントとは言えないな。

 しかし何がいいのだろう。
 もちろん今までソフィアの誕生日や記念日にはプレゼントを欠かさず贈っていたが、よく分らなかったのでそういった事に詳しいメイドに選んでもらっていた。
 失敗した。ちゃんとメイドに聞いておけば良かった。
 完璧な婚約者として失格だ。

 少し凹んでいると、ソフィアがあるものをじっと見ていた。
 ブローチだろうか、でも安すぎないか。
 俺は侯爵家の令息だ。この店の一番高いものでも買えるぞ。たぶん。

「ソフィー、それが欲しいの?」
「…ん」
「もっと高いものでもいいぞ」
「…ん!」

 イカン!また「同じ事を何度も言わすな!」だ。

「わ、分かったそれにしよう」


 何とか無事?にプレゼントを買うことに成功した。
 あのブローチの宝石が俺の瞳の色だとは全く気づいていなかった。
 ちなみに家に帰ってから母にその事を話したら、やたらとブローチがどんなものか聞いてくるので答えたら。

「ルーカス!婚約者は相手の色の物を身につけるのよ。こんなの常識じゃない!そんな事も知らないの?馬鹿なの!あなたは大馬鹿者なの!」

 と、めちゃくちゃ怒られた。あの時は色々テンパっていたから冷静な判断が出來なかっただけなのに。
 それにランベルト商会だということにも気づかなかった。それも怒られた。
 でも眼鏡クイッ、がなかったのでそれほど嬉しくなかったと思うのにそこまで怒らなくても。しょぼん。


 アクセサリー店を出た俺達は、オシャレなカフェでお茶をしてから、ソフィアの買い物に行った。
 相変わらずよくわからない草を買っていた。
 まあ、これはいつもの事だから問題なく済ませることが出来た。

 こうして今回のお出かけは無事?に終了した。


 家に帰って、母にめちゃくちゃ怒られた、というのもあるが、何故かいつもより疲れて倒れるようにベッドに入ってあっという間に眠った。
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